2010年11月11日

結婚条件は、金に学歴、語学能力、フルタイム就業…

永い眠りから覚めなければ…と自らを叱咤して、このブログもようやく復活したい。怠ける期間が延びれば延びるほど、元のペースを取り戻すのは難しくなるものだ。

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2010年11月8日の夜に2011年度の財政法案が可決された。与党の自由党保守党と、協力政党のデンマーク国民党、そしてキリスト教民主党の賛成によるものである。過半数の賛成を取るためには、それぞれの政党に誘因を与えなければならない。自由党は、経済政策に責任感を示し、ユトランド半島西部に高速道路を作ることを合意させた。保守党は、わずかながらマルチメディア税(高福祉の裏にある過酷な税徴収と「いたちごっこ」 参照)の減税とホテル滞在の法人優遇措置等によって、産業界へ利益を取り付けた。デンマーク国民党は、いつもながら移民政策をさらに厳格化させる合意を得た。

しかし、これだけでは過半数にならない。与党は、自由連盟党の賛成を取ることを見込んでいたが、よりドラスティックな経済自由化を進めたい自由連盟にとっては、予定されている減税が十分でないとして、先週末に彼らは交渉の場から退いたところだった。困った政府の目に留まったキリスト教民主党の1議席だった。同党は前選挙では議席を獲得していないが、保守党議員だったペア・ウルム・ヨアンセンが治療休暇取得ののち同党を離党し、2010年6月にキリスト教民主党に入党したため、突如一議席を構成することになった。元保守党議員の彼の賛成票を得るのは難しくない。こうして政府は179議席中の90議席という紙一重ともいえる過半数を獲得し、財政法案は可決された。ウルム・ヨアンセンは今回の件で大きく名前を売った。

財政法案のなかでも、とりわけ大きく取り扱われた合意は、外国人政策の分野である。右翼政党であるデンマーク国民党が政府与党への協力政党としてキャスティングヴォートを握ってきたことにより、2001年以降外国人政策の分野は締め付けは厳しくなる一方である。「愛の難民」は、橋を渡って母国を離れる で挙げた通称「24歳ルール」や、結婚許可は試験合格後に、外国人の生活支援は契約後に で挙げた国籍取得試験や移住試験(予定を過ぎてもいまだに完成しておらず、統合省は苦い思いをしている)はそのいくつかの例であった。

今回24歳ルールに代えて取り入れられた条件が、「ポイント制」である。家族再結合の要件(結婚による配偶者呼び寄せもこれに当たる)に、入国する外国人の教育程度(12年間の教育、つまり高校卒業以上を前提とする)、語学能力(ヨーロッパのメジャーな言語を高いレベルで使える能力)、就業経験が審査の対象となり、それらに応じたポイントを獲得して初めて認可が下りることになった。デンマーク国民党は、この夏以来、24歳ルールを28歳ルールにし、双方が28歳になっていないとビザを出さないという規定を強く主張していたが、これには与党の反発も強く実現されなかった。その代わりに出たのが、今回のポイント制で、これによって、23歳であっても労働市場に統合されやすいとみなされた「有用な外国人」は入国ビザを得ることが可能となった。教育程度、語学能力、就業経験のどれかひとつだけでも満たせばいいというわけではないようだが、具体的な獲得ポイント数等についてはまだ明らかにされていない。

その上、要請される条件は呼び寄せられる側だけに課されるだけではなく、呼び寄せる側にも14項目も課せられる厳しいものとなった。呼び寄せる側も、「ゲットー」と称される移民ばかりが住み、失業率が高い地域に住んでいないことが期待され、その場合にはポイントが得られる。ゲットー問題を解決していくことは、10月の国会開会スピーチでもラスムセン首相が大きく掲げており、財政法案でも現在のゲットーの取り壊しから新しいものの建設までを含めて大きく予算が組まれており、重点課題とみていることが窺われる(ゲットーについては、重要な話題であるため、稿を改める)。

さらに、呼び寄せのための預託金の額は100,000クローナ(現在の円高でのレートでも約150万円)に上げられ、過去3年間のうち2年半以上フルタイムの就業をしている場合とされる見込みだ。学生の場合には、額は少し下げられるようだが、貯金をする習慣のないデンマークで、10万クローナも銀行の凍結口座に入れておくという条件は相当厳しい。また、介護や保育に従事している人はパートタイムで働いている場合も多いうえ、建設業等ではポーランド人等の季節労働者も多い。公共データベースDreamによると、このフルタイム就業の条件がつくだけで、すでに75万人が引っかかり、配偶者の呼び寄せ不可能となると見込まれている(Politiken, 2010.11.12.)。

こうした仕事に就く人たちを蔑ろにしているとして、野党の社会人民党や社会民主党は反発を強めているが、今回の合意が最終的な法案の形で出るまで、はっきりとした野党の対応は決まっていない。党内での意見も大きく分かれているというのが現状だ。こうした厳しい要件は、外国人で滞在ビザを持つ者だけではなく、デンマーク国籍の者にも課されるのか。グレーゾーンのまま明確な回答は出されないままだった。

今回の法改正によって、デンマークの外国人政策がEUの中でも最も厳しいものとなるのは確実、とヨーロッパの社会民主党組織の代表を務めるポウル・ニューロップ・ラスムセン(Poul Nyrup Rasmussen)はいう。彼はこれによって、国内の外国人敵対感情を助長するものになると危惧するが、最終的に社会民主党が同合意にどのように対応するかについては言葉を濁している(Politiken, 2010.11.11.)。その後、社会民主党は公式にポイント制への賛意を明らかにし、ニューロップは自分の党の判断を非難している(Information, 2010.11.12.)。

そしてようやく、呼び寄せる側がデンマークの国籍を持つ者の場合には、課せられる要件の14項目のうち6項目だけを満たせばいいことが明らかになった。デンマーク国民党が強硬な主張を妥協したことになる。前記キリスト教民主党のペア・ウルム・ヨアンセンは、同法案が成立することになると75万人もの外国人が配偶者を呼び寄せられなくなることに驚きつつも、影響力を持つために財政法案に賛成すると決定した以上、その一部を構成する外国人法案の改正にも賛成するとしている(Politiken, 2010.11.12.)。社会人民党もまた党内緊急ミーティングの結果、ビザ獲得のポイント制に合意することを決定し、多くの左派政党支持者を落胆させた。もっとも左寄りとされる統一リスト党の若き党首ヨハネ・シュミット‐ニールセン(Johanne Schmidt-Nielsen)は、この改正を「社会的アパルトヘイト」と呼び強く非難しているが、野党で4議席しかもたない同党の影響力は大きくない。

こうして右派・左派を問わず、外国人政策のポイント制は賛成を受けたこととなり、結婚による外国人配偶者の呼び寄せには、呼び寄せる側が十分な預託金をもち、呼び寄せられる側は学歴、職歴、語学能力に不足ない場合にのみ認定されることが決まった。法案の詳細はまた改めて出されることになるが、かなり厳しいものとなることは間違いない。現行政権の官僚の不祥事が相次ぐなど、「オウンゴール」により、政権交代は確実としてささやかれるが、交代が実現してもも外国人政策が緩和される見込みはあまりないことが明らかになったといえる。
外国人の「選別」をする国、デンマークの姿はヨーロッパの外国人・移民政策でも明らかな位置をもち始めている。
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2010年06月03日

移民のバス運転手、ムクターの場合

経済政策に関しての記事を近々アップするべく、書いているところだが、その前にYouTubeの動画をご紹介。5月12日にアップされてから、すでに178万人が見ている人気映像。



5月5日は、移民のバスの運転手ムクターの41歳の誕生日。欠勤するつもりだったが、友人に頼まれて通常通りの勤務につく。すると、タキシードを着た乗客が乗ってきて、突然トランペットで誕生日の歌のメロディを吹き始める。怪訝に思っていると、今度は別の乗客が彼の名前を入れて、誕生日の歌を歌い出す…。

大人の誕生日も祝うデンマークならではのエピソードだ。デンマークに住んでいる人なら、誰でも聞いたことがある誕生日の歌のメロディが耳に残る。
ラベル:統合政策
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2008年05月11日

顔のない裁判官に判決を言い渡される日

先週、もっともメディアで騒がれていた国内ニュースといえば、デンマーク国民党の差別的なキャンペーンポスターが挙げられる。目だけを出し、ブルカを被ったムスリムの女性が「判決を言い渡す」という見出しで、木槌を振り下ろそうとしているものである。現在まで、デンマークの法廷でムスリムの裁判官はまだ誕生していないが、「法廷」という理性の象徴ともいえる場において、強い宗教的シンボルを身に付けていていいのかという議論で、デンマーク国民党が人々をまた挑発する構図である。ポスターの下には、服従(オランダで暗殺されたテオ・ヴァン・ゴッホ(Theo van Gogh)の問題映画、“サブミッション”と同じである)の文字。

thi kendes.bmp
服従

ムスリムが頭に巻いているスカーフは、女性の抑圧の象徴である。イスラム主義者はこれをもって信仰の男性の女性に対する優越、ムスリムの非ムスリムに対する優越を強くはっきりと示すのに使っている。「30gの布切れ」の話ではない!これは、暴虐と服従の話なのだ。

国会の過半数はこれをそのまま受け入れている。そして法曹界は今後、市民であるあなたが、法廷で暴虐の覆いで包まれた裁判官に会うのを受け入れないとならないと決定した。
やめなさい。今すぐに!

デンマーク国民党
−私たちにデンマークを返せ
それから数日間、メディアの議論は、現在法曹界に進むために法学を勉強しているムスリムの女子学生たちインタビューを取ってみたり(2008年5月7日、Nyhedsavisen、2008年5月8日、Politiken)、政界、産業界から文化人まで26人が集まって、公開書簡の形でデンマーク国民党への批判がでたり、と賛否両論が続いた(2008年5月7日、Politiken)。公開書簡を出した26人のうちには、元外務大臣ウッフェ・エレマン−イェンセン(Uffe Ellemann-Jensen)、作家ベニー・アナセン(Benny Andersen)、元国立銀行頭取エリック・ホフマイヤー(Erik Hoffmeyer)らも含まれ、デンマーク国民党の差別的なキャンペーンは、デンマークの原理的な価値観(寛容さなど)を攻撃するものであり、統合への努力を無に帰すものだと批判している。

このデンマーク国民党のポスターは、2008年4月に国会の発言者がスカーフを被っていることは違法ではないという決定が下されたことを受けている(2008年4月8日、Berlingske Tidende)。実際に、承認されたのはスカーフであって、目以外をすべて覆ってしまうブルカは禁止されているが、敢えて挑発のために大げさな話題になるように、ブルカの女性を使ったわけである。「たった1,2年前でも、国会や高等裁判所でスカーフを承認するなんて思っていなかったでしょう。次のステップがブルカじゃないとどうして言い切れるのでしょう」(2008年4月30日、Politiken)というのが、デンマーク国民党、党首の弁である。

こうした人々の「漠然とした不安」につけ込んで挑発をするとなると、デンマーク国民党の戦術は抜群にうまく計算されており、反発を招きつつも国民に強いインパクトを与えて話題となる。デンマーク図書館大学の視角コミュニケーションの研究者であるハンス・ダム・クリステンセン(Hans Dam Christensen)は、デンマーク国民党は多くの場合、写真や絵を使って有権者に訴える政党であり、だからこそ政策や議論といった伝統的な通常の政党アピールには響かない層も無視できず、国民の感情に訴えかけるのだと説明する(2008年4月9日、Politiken)。

「デンマークを返せ!」というフレーズは、2007年6月にジャマイカでの交通事故のため、32歳で夭逝した女性ラップ・レゲエシンガー、ナターシャ(Natasja)の人気ソングの名前から取られているというクレームで、彼女の仕事の版権を持つ母親とマネージャーがデンマーク国民党に対して裁判を起こすことになった。(DRネットニュース、2008年5月3日2008年5月7日、Politikenなど)。「デンマーク国民党がナターシャを利用しているのは疑いの余地がない。一つのスローガンが効き目を奏するのには普通時間がかかるが、これはナターシャと彼女の歌で、ナターシャが創出し、人々に届けた価値だ。そのフレーズが普通の言い回しだということは何の関係もない。ナターシャがこのフレーズに価値を与えたのだから、「私にデンマークを返せ」は引用として考えられるべきだ」と、ナターシャのマネージャーは言っている。

natasja.jpg 彼女の墓石にもこのキリリとした写真が付けられ、ファンからの花束が多く捧げられていた。



しかしながら、上記記事によると、コペンハーゲン大学の著作権の専門家であるモーテン・ローゼンマイヤー(Morten Rosenmeier)は、ナターシャの「私にデンマークを返せ」からデンマーク国民党の「私たちにデンマークを返せ」とささやかながら変更もあるし、彼女が一番最初に言い出したフレーズだという主張は難しく、グレーゾーンとなるのではないかと見ている。もちろん、デンマーク国民党の党首ピア・ケアスゴー(Pia Kjærsgaard)は、「(フレーズが似ているのは)単なる偶然で、そんなの(ラップのヒットソング)に気付くには私たちは歳を取りすぎている」と剽窃疑惑を一蹴している。

デンマーク国民党のこうした好戦的な挑発に、2008年5月7日には党議員のイェスパー・ラングバレ(Jesper Langballe)が二人組の男に乱暴を受け、大きな怪我をしたわけではないものの、警察に被害届を出したことを報じている(2008年5月8日、Nyhedsavisen)。

折しもこの論争のさなかに、社会民主党の議員ヘンリック・ダム・クリステンセン(Henrik Dam Kristensen)が、警察官、医師、ソーシャルワーカー、保育士など、すべての公的機関で働く者にスカーフなどの宗教的な服装を禁止すべきという提案を出し、(デンマーク国民党以外から)総すかんを食らうという一悶着があった(2008年5月3日、Politiken)。この提案は、福祉施設で働く33万人の介護福祉士や社会福祉士、小学校、高校で働く20万人の教師たち、ソーシャルワーカー、警察官、公務員など14万人の行政に携わる者、医師や看護師、福祉士といった12万人以上の医療セクターで働く者のすべてを制限しようという提案であったが、社会民主党党内でも賛否が分かれ、結局は半日後に取り下げられた。右派であるデンマーク国民党だけでなく、社会民主党の中からもこうした提案が出ることからも、「イスラム化」や「宗教の理性への侵食」に不安を抱いていることがわかるだろう。

独立した司法府は当然、宗教とも切り離されなければならないというのが前提である。しかし、スカーフではなくても、十字架のペンダントをした場合は?シーク教徒のターバンは?ユダヤ教徒のカロット(キッパ)は?と一つの決定が、別の決定にも波及するのでそれらの影響も念頭において考えられなければならない。キリスト教の象徴するものは受容され、イスラムの象徴する価値だけを排除する論理を作ることは難しい。しかしながら、デンマーク国民党のポスターは、これまでも銀行のATMの前で現金を引き出そうとしている、ソマリアの女性「外国人に要件を課せ−今こそその時だ!」(「デンマーク人の金を、(福祉手当という形で)どんどん引き出している」という符号)、子どもの写真とともに「この子が60歳になる頃、デンマークではムスリムが過半数に」、デンマークの国旗の横でスカーフを被ったムスリムの女性が法廷に立ち、「判決を言い渡す シャリーア(イスラム教に基づく法体系)に則って国は作られるべきである」など、好戦的で人々の危機感と不安を煽り立てるものをたくさん広告に使ってきた。デンマークだけではなく、フランスオランダドイツでも、何らかの形での規制が入り始めており(外国人の権利の保障とムスリムへの猜疑心 参照)、スカーフを巡る議論は枚挙に暇がない。規制が移民統合のための布石になるとは考えづらく、どちらの立場も納得できるような妥協案を見つけ出すことが求められるだろう。

最後に、ナターシャの「デンマークを返せ」("Gi' mig Danmark tilbage")の映像を載せる。彼女のヒット曲を恣意的に使うデンマーク国民党とはちょっと違った、本人の思いが読み取れるかもしれない。

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2008年05月03日

結婚許可は試験合格後に、外国人の生活支援は契約後に

外国人として暮らしていると、移民政策・統合政策は生活に関わる問題として非常に関心も高くなる。「愛の難民」は、橋を渡って母国を離れる でも言及した「24歳ルール」は不条理な要件の最たるものの一つだが、「デンマーク的な価値」が薄まることに脅威を覚えるゼノフォビアが、宣誓書を書かせることで価値を縛ったり、試験合格を義務付けたりすることで人々を選別し、歪んだ安心感を生み出そうとしている。北米で国籍取得の際に使われる用語、naturalisationはデンマーク語でもテクニカルタームとして時々使われるが、“unnatural(不自然)なもの”を「中和」して“natural”に、というような驕りが感じられ、グロテスクに響くように感じる。

デンマークの現行政権は、自由党と保守党から成る連立政権だが、右寄りのデンマーク国民党も与党に閣外協力をしており、選挙のたびに票を伸ばしている彼らの影響力はますます看過できないものになってきている。ピア・ケアスゴー(Pia Kjærsgaard)を党首とするデンマーク国民党は、排他的な移民政策の提唱で知られるが、2008年4月30日のPolitikenの一面にはデンマーク国籍を取得する外国人を何とか減らそうと腐心する彼らの理屈付けが扱われている。

外国人がデンマークの国籍を取得する(日本の法律用語で「帰化」と呼ばれるもの)には、数々の要件を満たす必要があり、要件は年々厳しくなっている。それによって、社会民主党政権だった2000年には19,323名もいたデンマーク国籍獲得者は、2007年には3,648人と激減している(デンマーク統計局データより)。このPolitikenの記事のデンマーク国民党の主張は、国籍取得のための要件の一つであり、2005年12月から実施されるようになった、「デンマークの歴史・社会に関する試験」が簡単すぎ、選別の意味を成していないので、より厳しい基準で試験をすべきだというものである。

これは、デンマーク国籍を取得しようという外国人は、歴史や文化、社会システムにも理解がなくてはならないという考えのもとに、試験の実施が決定され、難民・移民・統合省によって長い時間をかけて試験が作られ、2005年12月から毎年12月に(2008年からは6月と12月の年に2回)実施されるようになったものである。試験問題がマスコミに公開されたときは、「さて、あなたはデンマーク人になれるか?」「教員養成大学の学生たちに解いてみてもらったところ、合格率は…」と冷やかし混じりにその難度を挙げる論調が多く、確かに「常識」を問うものではなく、細かな知識の有無を問う試験問題という印象だった。中には「憲法に定められた信教の自由は、いかなる条件の下で守られるか。A.社会で通用しているその他のルールが尊重されている限り。 B.国家がその信仰を認定している場合。 C.何の制約もない。」といった、間違えたら明らかなマイナスポイントが付きそうな問題も混ぜられている。(正解はもちろんAで、「デンマーク社会で通用しているルールを守って初めて、信仰の自由という権利を主張できるのだ」と確認する意図である)

試験は40題の問題で構成され、60分で選択式問題に解答し、28問の正答で合格となる。なかなか厳しく聞こえるが、出題される問題は、事前に入手できる200問の試験問題と解答が載ったハンドブックから35問がそのまま選ばれ、残りの5問は時事問題などの社会情勢から作られるという。この「35問はそのまま出題」という事情により、意味もわからないままに解答を丸暗記することができ、合格率は97%と思いがけず高く出たらしい。試験監督を経験した者も、「6-8分で解答を終えている者も多かった」と述べるなど、明らかな丸暗記がわかるという。

2007年の選挙後に就任した、移民・難民・統合省大臣ビエテ・ロン・ホーンベック(Birthe Rønn Hornbech)も、「私自身、事前に試験問題を与えられているような学校に通ったことはないことを強調しておきたい。この試験の形態については私も疑問に思っている」と、デンマーク国民党と交渉に応じて見直しをし、国会の閉会前に結論を出す構えを見せている。

試しに、同記事に載っていた2007年に実施された過去問を解いてみたところ、自信を持って正解できたのは40問中32問であった。選択式なので、残りは適当に書いても運がよければ、正答数は34-35問くらいになるだろうか。200問の問題と解答の載っているハンドブックは見たことがないまま解いた割にはよいスコアだが、社会事情に関心を持ち、博物館等もかなり行っている私は、標準の外国人より明らかに「特別」な部類に入るだろう。消極的な動機でデンマークにいる人々にとっては、関心の湧かないであろう分野で事前の「赤本」なしにこのレベルを課すのは厳しい。国籍取得の動機は様々である。この試験を受けて、デンマーク国籍を取得された「元」日本人の方とお話ししたことがあるが、その方の動機は、年金額に大きな違いが出ることがわかったからだそうで、猛勉強されたとおっしゃっていた。晴れてデンマーク人となった人はセレモニーで迎えられ、その名前は日本での帰化と同様に、官報に載せられる。

ビエテ・ロン・ホーンベック大臣は、この試験のやり方の見直しについて、「(国籍取得者を減らすことが目的ではなく)その正反対で、人々が資質を高め、できるだけ多くの人が国籍を取得することに関心を持っている」のだと説明するが、その「資質」を問うことが国民の質を保障し、“安心感”に繋がるという安易で排他的な論理になっていることは不問のままである。

国籍取得に関しては、デンマークも日本と同様に二重国籍を認めていないが、4月初めにも新同盟のヨアン・ポウルセン(Jørgen Poulsen)が二重国籍を認める提案を出すことで話題になった(2008年4月4日、Information)。EUに加盟している27ヶ国のうち、二重国籍を認めていないのはわずか6カ国で、うちアイスランド、スウェーデン、フィンランド、ドイツは2つのパスポート所持を認めているとして、2008年4月29日に二重国籍を許可する案が提出されたが、国会で却下された。移民・難民・統合省大臣のビエテ・ロン・ホーンベックは教会省の大臣も兼任しているため、時間がないとして集められた9,400の署名を受け取りさえもしなかったとして、ポウルセンは落胆している様子が記事になっている(2008年4月30日、Information)。野党は、5月28日にスウェーデンとノルウェーから専門家を呼んで、実施しての効果や影響などについて意見聴取することにしたようなので、完全に廃案になったわけではなさそうだが、あまり実現の見込みはないように思う。

デンマーク国民党のソーアン・クアルップ(Søren Krarup)は、「一つの国籍を持つからこそ、人は一つのアイデンティティが持てる。二重国籍なんて、重婚のようなものだ」と持論を展開し、自由党の国籍部門スポークスパーソンである、ギテ・リレルンド・ベック(Gitte Lillelund Bech)は「二重国籍は、例えば兵役などと関連して問題を生じる可能性はあるし、他の国籍を諦めるという大きな決断をしてまで、デンマーク国籍を得たいという意思表示をすることに意味があるのだ」とする(2008年4月4日、Information)。この辺りの議論からも、デンマークの移民政策の保守性、国籍を巡っての慎重な議論が窺われるだろう。

試験を課されるのは、国籍取得を希望する者だけではない。デンマーク国籍保持者と結婚して、デンマークに暮らす外国人に対しても、国籍を変えずとも永住権を取得するためには、同じ滞在条件でデンマークに7年間連続して居住していること(滞在許可の種類が変わると、その前に何年住んでいても0に戻り、1からカウントされる)、導入プログラムを修了すること、デンマーク語2試験(PD2)あるいは、デンマーク語1(PD1)の試験+必要に応じてPD2相当の英語の試験に合格すること、といった数々の要件が課されている。この居住期間要件も、ノルウェーは3年、スウェーデンはたった2年であるから、他の北欧諸国と比べても厳しさは明らかである。デンマーク的価値を認め、統合への努力をします、という宣誓書にも署名させられ、そのフォーマットは23ヶ国語で用意されている。「統合への契約書」という契約を結び、その外国人が永住権を獲得するまで(つまり通常7年間)が、その契約期間となる。

さらには、永住権どころか、デンマーク人との結婚のために外国人を呼び寄せる段階で、その外国人はデンマークの歴史・社会とデンマーク語の試験に合格していることが要請されるようになった。外国人の結婚は、外国にいる家族を呼び寄せるという「家族再結合」のカテゴリーに入り、入国・滞在許可に関しては、外国にいる配偶者をデンマーク人が呼び寄せる形になる。この試験は、移住試験と呼ばれ、2007年4月に国会で決定されたもので、デンマーク国籍を持つものと結婚する外国人やデンマークで宣教活動をする者(イマームなどだろう)に課される。まだ実施されていないが、近い将来の実施に備え、関連省庁は試験問題と対策問題集の作成に当たっている。それほど高いレベルの見識を問うものではないとは言え、「試験合格者にのみデンマーク人との結婚を認める」という横暴は、家族に喩えてみれば、「試験に合格しないと、○○家の一員にはさせない!」と憤っているナンセンスな親の姿ではないのか。

移住試験自体は、上述の国籍取得試験と同じように、100題からなる対策問題集が事前に入手できるようになっており、そこから30問が出されるようだ。しかし、国籍取得試験の議論を聞いていても、「簡単すぎて機能していない」と、のちに締付けを強め、特にEU外からの移民を排除する方向に進んでいくことは十分に考えられる展開である。締付けの狙いは、「普通のデンマーク人」の国際結婚を阻害するというよりも、デンマーク国籍を持った移民の背景を持つ者(例えば、パキスタン人のムスリム)が、親の勧めによってパキスタンからムスリムの婚約者を呼び寄せる(しかし、実際は従兄弟など拡大家族の呼び寄せだったりもする)といった事情を歓迎しない勢力が、「(親の意思での)強制結婚は人権侵害だ」「デンマークの福祉を享受するための偽装結婚だ」といった正当な論理から出発し、デンマーク社会への統合という名目を掲げて、非デンマーク的、非ヨーロッパ的な価値を押し出そうというところにある。

外国人が入国してすぐに、迅速かつスムーズなデンマークでの統合をできるようにするのがこの試験実施の目的、と説明されているが、「非デンマーク的なもの」を“不正解”とし、“正解”を認めないと滞在許可を与えないという圧力をかけることにつながると危惧する。試験費用に関しても、受益者負担の原則の下に3,000kr(約7万円)ほどが自己負担になるようだ。「試験に不合格だったのだから」と排除する正統な理由づけを探し、自己責任の原則で本人の努力不足に帰して、外国人を遠ざける原則を進める移民政策の今後にも、不安を拭い去ることができない。
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2008年01月27日

外国人の権利の保障とムスリムへの猜疑心

先日、知り合いの研究者の方にデンマークにおける外国人の参政権について質問を頂いたため、曖昧に理解していた事柄を調べてみるよい機会となった。折角なので、それらを補いながら在デンマークの外国人の権利としてまとめてみたい(便利サイト、オフィシャル市民情報、参照)。大雑把に見て、たいていの場合に、デンマーク国籍の者、北欧及びEU国の国籍を持つ者(北欧理事会の仲間ではあるが、EUに加盟していないノルウェーやアイスランドへの配慮であろう)、その他EU外の国籍の者という3つに分けて考えられる。

人種間の平等という観点から、デンマークの憲法、国際的な人権条約によって、人種を理由として待遇に差をつけることを禁じている。アメリカで行われている積極的差別是正措置のような人種を理由としたポジティブアクションに関しても、デンマークでは違法となる。

また、難民としてデンマークにやってきたばかりの者の聴取、刑事裁判(民事裁判は私費)は公費にて通訳が手配される。そのほか、かかりつけ医院や病院やコムーネの関与した案件でも、必要と認められる際には公費にて通訳が手配される。

とくに難民としてやってきた者に対しての援助は充実している。母国での拷問などによりトラウマを患っている者に対しては、コムーネからも心理療法家や特別サポートセンターを紹介されるほか、難民サポート団体や赤十字からも援助が受けられる。

また、バイリンガルの子どもについてのサポートも非常に気遣っている。英語でバイリンガルと言うと、二ヶ国語に長けたというポジティブな意味となるが、デンマーク語では親の国の言葉とデンマーク語の狭間にあって十分にデンマーク語で学力を身に付けられない(弱)者というネガティブなイメージを内包している。国内で学力テストなどをしても、こうしたバイリンガルの子どもたちがクラスの平均成績を下げている現状があるからだろう。そのため、彼らのデンマーク語習得をサポートする体制はかなり整っている。

例えば、外国人の親を持つ子どものデンマーク語能力に心配があると見受けられる場合、3歳以上のすべての子どもに対して、「デンマーク語推進(刺激)コース」が提供される。親は子どもをこのコースに参加させる義務を負う。基本的にこうしたコースは保育園等の機関で行われるが、それらに入れていない場合には、コムーネは別の場所で週に15時間のコースを提供することが義務付けられている。小中学校の生徒に関しても、第二外国語としてのデンマーク語教育が必要と認められれば、それらの教育も行われる。

母国語教育に関しても、EUの国籍の者に対しては非常に寛大である。EUの国の国籍を持つ子どもに対しては、コムーネは最低週に3時間の母国語教育を提供することになっている。EU国籍以外の子どもに対してはこのサービスはない(コムーネが希望すれば、無料で母国語教育を提供することもできるとは書いてあるが、稀なケースだろう)。

そして参政権に関しては、国会(Folketinget)選挙は、選挙権・被選挙権共に18歳からだが、これはデンマーク国籍を持ち、さらにデンマークに住所を持つ者に限られる。つまり、デンマーク国籍を持っていても、国内に住所がなければ、投票することができないという、日本の選挙よりも限定性の高いものになっている(ただし、デンマークにある機関・企業・協会によって他国に派遣された者、デンマークがメンバーになっている国際機関に雇われている者、デンマークの開発援助組織に派遣されている者、外国で就学している者、病気を理由に外国に住んでいる者は例外になる。これには穴があって、「24歳ルール」のため、デンマークに住めない外国人とデンマーク人のカップルで、マルメに住んでコペンハーゲンに通勤・通学しているようなデンマーク人は、毎日コペンハーゲンに来るほど「デンマーク人」であっても、選挙権を失う。彼らが投票できたら、現政権が続投という事態にはならなかったのではないかというのが、一部での見方である。)

さて、地方選挙(県議会・市議会選挙)は、4年ごとに行われ、11月の第3火曜日と決まっている(次回は、2009年の11月)。前回の2005年は5つのリージョンと98のコムーネになってから、初めての選挙であった。デンマーク国籍の者はいうまでもないが、北欧諸国あるいはEUの国籍を持つ者はデンマーク国内に引っ越し次第、選挙権がある。しかし、EU外の国籍を持つ者も、デンマークに住んで3年が経過していれば、選挙権(被選挙権も)が与えられる。

つまり、国会の選挙への参政は、国籍取得が絶対条件となるハードルが高いものであるのに対して、地方選挙はデンマークあるいはヨーロッパとのある程度の関連がありさえすれば、比較的簡単に参政させてもらえるということになる。宗教や人種を理由に差別することは憲法で禁じられているため、就職等を始め、権利の面でも違いはないが、国籍を理由に権利に違いがあるということである。

そのため、例えばトルコ国籍を持つ第一世代の親は、3年以上デンマークに居住することで地方選挙に参政できるという権利が保障されており、その子どもたち・孫たちという第二・第三世代に対しても、デンマーク国籍がない以上、同じ権利となる。子どもの出生では、両親のうち少なくともどちらかデンマーク国籍を持っている場合には、デンマーク国籍がもらえるため、理論的には、第一世代の親が後にデンマーク国籍を取得し、そして子どもを出生すれば、血統としては両親がトルコ人の子どもでも、デンマーク国籍を取得することができることになる。(成人後に二重国籍を許しているか選択となるかは、デンマークの法律だけではなく、この場合トルコの法律にも関わることになるため、不明。)

法律上のことではなく、現実面から言うと、やはり移民、あるいは第二第三世代の人々の投票率は低いと聞く。この点でも、前回国政選挙に立候補したアスマー・アブドル・ハーミッド(Asmaa Abdol-Hamid)というパレスチナ系のイスラム教の女性が当選したらどうなると随分騒いでいたが、社会の代表性という意味でも何らかの影響はあったと思われる。残念ながら選出されなかったが、(宗教上の理由で)男性とは握手しないとか死刑に反対しないといった理由で、話題になっていた。

このように、デンマーク国籍はより多くの権利の保障を求める際には必至のものとなるが、国籍取得に至る過程は長い。特に近年のEU外の外国人締め出しの傾向の中、要件は厳しくなる一方である。国籍取得と行かないまでも、永住権を取るためにも語学習得等の要件さえ課される。これまで税金を納めてこなかったのに、福祉国家の恩恵を受ける移民たちに対して締め付けが行われるのは理解できるが、「良い移民」「悪い移民」といった単純な図式で選別的になっている様子も見受けられる(選ばれし移民は去り、招かれざる移民は周縁に、参照)。

オランダでのイスラム女性に対するブルカの全面的禁止というラディカルな提案は、信教の自由との兼ね合いから、当初の「すべての公共の場において」(つまり、道路や公共交通機関など、まさにすべての場で)から、フランスのように「学校や公の仕事場などで」に限られることに決定されたようだ(2008年1月26日、Politiken)。目のところだけがメッシュになって、足先まで覆うこうしたブルカに対してだが、やはり人々の不安を煽る要素はあるのかもしれない。それでも、当初の世論調査では、70%もの市民が全面的禁止に賛意を示していたと言うから驚きである。

burka.bmp

外国人の権利を語る際の政策の立案自体も、どうもイスラムの人々を念頭に置きながら作られているようにも思われる。移民・そしてデンマーク生まれの二世・三世(「エフターコマー=後から来た人たち」と呼ばれる)のなかで、中東から来たイスラム系の人々が圧倒的に多いからだろう。オランダでは1600万人の人口のうち、約100万人がイスラム人口と言う。デンマークでは、まだそこまでは至らないが、こういった事情もあり、このニュースも関心を持って受け止められたようである。新聞記事ブログには「読者コメント欄」があるが、この記事のところには「残念だなぁ」といったコメントが複数見られるのも、なかなか考えさせられる。トルコのEU加盟の問題などもあわせて(例えば、上記の参政権の記述を見ても、EU加盟国の国籍を持つことでどれだけの違いを生むかは明らかだろう)、ヨーロッパにおける外国人の権利の問題は本音と建前をすり合わせながら調整する時期にきている。
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2007年12月01日

選ばれし移民は去り、招かれざる移民は周縁に

この11月に出されたレポートで、アムネスティ・インターナショナルは、デンマークは国家的に移民の周縁化し、差別を助長していると厳しく批判している(『国家が差別をするとき』 Naa staten diskriminerer、アムネスティ・インターナショナル、2007年11月)。国民総所得の0,94%(2005年)を政府開発援助へ拠出し、人道的援助にも大きな力を注いでいるノルウェー(国民総所得の0,7%以上を政府開発援助へ使っている世界5カ国のうちの一つ)や、ヨーロッパ一寛大な移民政策とランキング1位になったスウェーデンという北欧の兄弟たちに比べて、デンマークは不名誉な勲章をもらったといわざるを得ないが、今回は、このレポートについて取り上げたい。

デンマークでの失業者に対する福祉手当に関しては、以前にも福祉国家の失業給付の現状と未来に書いたように、「コンタントイェルプ(生活保護給付金)」といわれるものと「ダウペンゲ(失業給付金)」と言われるものがある。失業保険に加入しているかどうかによって、この二種類がのうちどちらかがデンマーク国民の失業生活を支えることになるわけだが、実はもう一つ、「スタートイェルプ(初期援助)」と呼ばれるものがある。しかしながら、これは過去8年間のうち7年間デンマーク国内に居住していなかった者を対象に、上記の二つの失業給付の代わりに支給されるものであり、その受給対象は94%がデンマーク人以外の民族背景を持つ移民・難民であり(2006年)、とくにその多くが難民保護施設の難民とその配偶者であるとされる。

つまり、アムネスティーの批判は、エスニック・マイノリティーを対象として、マジョリティーから区別したルールを適用することにより、彼らをヨーロッパの貧困線(下部、注参照)以下の生活に貶めていることを指摘し、国家が差別をしていることに向けられている。年齢や家族構成により、金額は変動するが、「スタートイェルプ」の給付金額は、通常の生活保護給付金に比べて約半分であり、物価の高いデンマークで貧しい生活を余儀なくされている。「スタートイェルプ」受給者が生活保護給付金を受給する資格を得るには、2年半のフルタイムの仕事を持っていることが義務付けられるが、受給者たちは母国での戦争体験や拷問をうけた経験などからトラウマを負っているケースも多く、心身を患っており、健全に働ける状況にはない。そのため、結果としてはいつになっても生活保護を受ける身分になれない。アムネスティの提案は、この「スタートイェルプ」を撤廃し、生活保護に一元化するか、あるいはヨーロッパ人権条約の第12議定書を批准するように、といった提案を出している。

生活保護給付金を受給できたからといって、楽に暮らすことと程遠いことは失業対策は、社会的弱者への締め付けかにも書いた。基本的に、権利の上に座っていることを許さず、社会へ参画するプレッシャーを絶えずかけて、税金を徴収することは忘れない国である。

今、失業率が3%ほどまで下がっているデンマークでは、労働力不足が問題である。日本でもフィリピン人看護師・介護福祉士の受け入れが決定され、実施されようとしているが、やはりデンマークでも医療・介護の領域での人手不足は深刻であり、これを外国人枠で埋めたいという思惑は同じである。また、高い課税率によって優秀な頭脳が対価を求めることにより国外へ行ってしまうことも大きな悩みとなっている。

そのため、このように貧しい移民たちが福祉国家の隅に追いやられている中、高学歴・高技能の外国人労働者をポジティブリストに載せてビザを取りやすくしたり、税制優遇等の措置によって呼び寄せたりするような努力も続けている。実際には、高学歴かつ優秀な移民であっても、発展途上国からその配偶者を呼び寄せるのに移民局が渋っていて、優秀な頭脳が定着しない例がいくつもあるようである。パキスタン人で、デンマーク工科大学の博士課程で研究を続けていた学生が、配偶者を呼び寄せられずに他の国へ研究環境を移す決心をしたことで、移民局が大学側から強く非難されている記事が載ったのもつい最近である(2007年11月12日、Politiken)。

現在、デンマーク側の企業・大学等との雇用契約によって就労ビザが出るためには年間1000万円程度(450,000kr)の収入で契約していることを証明しなければならないうえ、学歴等をポイントで査定し(有名な例では、カナダと同じ)満たしていることが求められ、これはかなり高いハードルとなる。研究者は最初の3年間は所得税を25%しか払わなくてよいなど、優遇措置はあるが、3年を超えてデンマーク人と同じ税率となるのであれば別の国へ行くと答える高学歴・高技能の外国人がほとんどである(2007年11月30日、Politiken)。会社内の国際的環境を促進したい企業の思惑と労働者側の期待する見返りがあわず、「つかの間の恋」となっているようだ。この記事によると、アドバイサーたちは、これらの要件を軽減化し、年間600万円程度(250,000kr.)の収入が確約されれば就労ビザを支給したらいい、3年間は所得税25%という選択だけではなく、3年後の延長期間も所得税を33%に抑えるという選択肢も出すべきだという提案を出したようである。

「ただの移民」をできるだけ受け入れたくないデンマーク国民党などの意向と、低技能・高技能の職場での労働者不足の現実は、この国で生まれて死ぬことを前提として作られた税制度の中で、一時期を過ごす外国人の「拠出する税金に見合わない就労期間」を生み出すことになり、そのことが誘致のジレンマとなっている。内部完結する税制と労働市場の需要が必ずしも一致するわけではないことに、問題の複雑さを考えさせられる。

参考:EUによる貧困線の公式な定義としては、その国の国民の平均年収の60%に満たない者、となっており、デンマークで対象者は9%、3万人程度とされている。デンマーク国内でも、目安としての貧困線を作ろうという議論は、左派勢力を中心として根強く、数年前からその努力が続けられているが、この選挙の直前に結局、定義を作るのは難しいという結論に達したことが報告された。
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2007年10月27日

「愛の難民」は、橋を渡って母国を離れる

二週間ほど前のことになるが、デンマークの各紙でヨーロッパ各国の移民政策のランキングが発表された。これは、ブリティッシュ・カウンシルの行った“Migrant Integration Policy Index”という調査であり、それによると、デンマークの移民政策はヨーロッパ28カ国(EU加盟の25ヶ国+カナダ、ノルウェー、スイスの3カ国を加えている)のうち、21番目に位置する「ひどいもの」であり、それに比べてお隣のスウェーデンは、ほとんど全ての項目で1位を重ね、寛大な移民政策の優等生に躍り出た。項目は、全部で6つに分かれ、「労働市場へのアクセス」、「家族呼び寄せ」、「長期在留許可」、「政治的参加」、「国籍獲得」、「差別防止措置」に関する権利の度合いを測ったものである。

この調査については、上記のリンクから全て結果が英語で見られるので詳細は割愛するが、2001年の社会民主党の敗退に伴う政権交代後、右翼政党を連立与党の一つとして、移民排除の方向に流れてきた傾向を見事に反映している。総合結果は、1位スウェーデン(Index 88) 2位ポルトガル(Index 79) 3位ベルギー(Index 69)と並び、デンマークは21位で(Index 44)である。他の北欧諸国が、スウェーデン(1位 88)、フィンランド(5位 67)、ノルウェー(8位 64)となり、寛大な様相を見せるなかで、デンマークの政策の「厳しさ」は際立っていると言えよう。デンマーク(赤い六角形)とスウェーデン(青い六角形)のスコアの概観だけ、表を載せてみよう。大きな点線枠が最高スコアなので、スウェーデンがいかに満点に近いかが見て取れよう。

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この結果は、デンマークで暮らすものにとっては、驚きに値するものではない。人権団体から批判を受けている、有名な「24歳ルール(外国人と結婚を理由に呼び寄せる場合、呼び寄せるデンマーク人は24歳を超えていなければならない)」を初め、さらに、そのデンマーク人自身のは国への関与がどの国に対してよりも深くなければならない(例えば、25歳だが、外国で生まれて過去10年しかデンマークに住んでいないという例などでは、関与が浅いと見なされる)など、いくつもの制限があり、それによって「愛の難民」と呼ばれるデンマーク人・外国人のカップルを多数生み出した。もともとはイスラムの国などから親戚兄弟などを呼び寄せるのに使われないようにという警戒から始まったものであるが、「警戒対象」以外をも巻き込んで、振り回す結果となっている。

こうしたデンマークの厳しい政策に対して、スウェーデンでは2年間住むだけで永住権をもらえるため、こうした「愛の難民」たちは、コペンハーゲンからウアソン橋を渡って間もないところにあるスウェーデンの都市、マルメを初めとしたスコーネ地方に住みつつ、コペンハーゲンに国境越え通学・通勤をしたりしている。それに対して、好景気のデンマークの人手不足でスウェーデン人が多数コペンハーゲンに「出稼ぎ」(デンマークの方が給料が高く、スウェーデンの方が物価は安い)に来ている最近の状況は、皮肉だと言える。こうした「選別」がこの調査に反映されたのも、想像に難くない。

この調査の「悪い成績」を「喜んだ」デンマーク人の反応は非常に興味深いものだった。知人は、「よかった…デンマークがこれだけ悪い順位だったということは、多くの国の状況はこれよりひどくないってことだから」と皮肉った。そして、右派政党のデンマーク国民党の統合政策のスポークスマンである、イェスパー・ラングバレ(Jesper Langballe)は、厚顔にも「ここでいう“移民”たちは私たちが積極的に欲しがる人材ではないのだから、むしろ喜ぶべきだ。こういう結果がでたことは我々がここまで頑張ってきた成果だ」と言う。ここで彼が述べているのは、国内で不足している業種や高い技能を持った労働力を歓迎するために、特定の職業に対して在留許可を優遇するポジティブ・リストに載っている者たちを指している。医者、看護士、エンジニア、物理学者その他の自然科学分野の研究者といったアカデミックなスキルを持った人々に関しては、早急にビザを発給し、しかも発給期間も長い。デンマーク国民党は、こういった人材を積極的に欲しがるのに対して、難民申請で来る者や、母国から家族を呼び寄せる中東やアフリカからの移民を選別して、排除する意図を示している。

つい二日前に、アナス・フォー・ラスムッセン(Anders Fogh Rasmussen)首相は内閣の解散を宣言し、11月13日に総選挙が行われることが決定した。慌しく始まった選挙戦は、すでに熱くなっており、テレビ等では各政党の党首討論が連日繰り広げられている。たくさんの福祉をめぐる課題の中で、税金の軽減を最重要課題とあげた現行政権に対する有権者の意識が問われることになる。移民政策も焦点の一つになると言われており、その動向が注目される。2007年10月27日のPolitikenによれば、もしもこの選挙で社会民主党が勝ったとしても、「24歳ルール」やデンマークに対する関与の深さを問う条件は廃止されない方向であるという。デンマークの移民政策は、まだまだヨーロッパ諸国の寛大さを学ぶ方向へはいかなそうである。

(豆知識 デンマークの選挙は必ず火曜日に行われることになっており、国会の開会も10月の第二火曜日と決まっている。)
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