2008年05月25日

コペンハーゲンの病気がちな公務員たち

病気の時、あるいは子どもが病気になったとき、給料を天引きされる心配なく、仕事を休むことができるのは、やはり福祉国家を実感させられる例だ。しかし、その反面、病気を理由とした欠勤が多すぎることが問題になっている。

コペンハーゲン・コムーネの管轄の46,000人の公務員(保育施設や小中学校、老人ホームのスタッフなど、コムーネから給与が支給される者をすべて含む)は、昨年平均して21日間病欠であったという。21日間というと、丸一か月分の勤務が「病欠」によって失われたことになる。これによって市民のために使われるべきであった、8億3000万クローナ(約200億円)が労働者の疾病給付に消えた。「疾病欠勤の多くは、経営改革に関わっている」とコペンハーゲン・コムーネの経済部門管理長のクラウス・ユール(Claus Juhl)はいい、経営陣が職員を簡単に休ませてしまうことにも原因があると見る。職員が必要なのは、仕事ぶりに対する「承認」であり、それが十分でないため、モチベーションも下がり、病欠が多いのだというのが彼の認識である(2008年5月19日、Politiken)。これに対して、コペンハーゲン市総市長のリット・ビャーゴー(Ritt Bjerregaard)は、現在の市の統治構造を問題として、構造そのものを改革することで、この多すぎる病欠問題に対応する提言をしている(2008年5月23日、Politiken)。

コペンハーゲンは市の規模が大きいため、1998年1月1日から、意思決定までの過程を短縮することを目的として、全体を7つの独立した部門に分け、それぞれの部門の長を「市長」として置く特別の構造をとっている。7つの部門は、経済、子どもと若者、文化・余暇、健康とケア(保育・介護)、技術と環境、社会、雇用と統合であり、総市長のビャーゴーが経済部門の長となっているため、市内の公務員全体の給与等も管理している。彼女によると、分立した構造のためにトップにいる役所の職員たちは、市民や市で働く公務員たちのために働くよりも、政治家(市長や市民代表といった選出された者)に仕えるのに忙しいという「絶望的な」行政状況で、「それぞれの部門が同じ仕事をしている」という。しかも、7つの部門のうち、2つの部門の市長だけが社会民主党所属だが、残りの5つはそれぞれ5つの政党であるため、各々が違った主張を通して協力が難しいであろうことは想像に難くない。彼女はこれを、ノルウェーのオスロ市のように、市議会の形式にすることを提案しているが、国会での承認といった煩雑な過程が必要となり、政府はそうした予定はないことから、実現は難しいと見られている。

オーフス大学の行政学教授である、ヨアン・グロンゴー・クリステンセン(Jørgen Grønnegård Christensen)は、このコペンハーゲン市の「横の連携のない行政形態」を批判しているため、リット・ビャーゴーの案に賛意を示しているが、これによって病欠を減らすことができるかどうかという点に関しては懐疑的である。

国内の他の都市と比較して、コペンハーゲン市が特別に欠勤が多いため話題になっているわけだが、いずれにしても傾向としては病欠の問題は全国的であり、官民を問わずに共通している。民間企業でも同様に、病欠中の給与は保障されており、公務員と自営の者に対してはコムーネから、民間で働く者は雇用者とコムーネから給付金が支払われる(雇用者からの給与が補償されない場合には、最初の15日間は雇用者、その後はコムーネが給与を補償する)。

疾病給付金は、雇用者が定められた給与を病欠期間中の分を支払わないという決定を出した時に給付され、その条件は、デンマークに在住していること、収入から税金を納めていること、(その職場で13週かつ120時間以上就業していること等、自営の場合には過去1年間のうちに6ヶ月以上働いていたことの証明など)雇用が一定の条件を満たしていること、病気やケガなどを理由として一定期間、勤務先で就業することが不可能になったことである。受給額は、通常の収入によって前後するが、被雇用者の場合は、最高額で週に3,515kr.(約8万円)かつ時給95kr(約2000円)であり、自営の場合には、最低で週に2,343kr.(5万円強)が補償される。この金額は2008年の水準であり、毎年1月に改訂される。これに課税されるため、この金額が支払われるわけではないことに注意されたい。

労働運動商業カウンシルによって2008年1月24日に発表されたデータ(PDFファイル)によると、疾病給付の受給率が前年度と比較して、11.7%も上昇し、受給者は平均して9万人強となり、この数は失業者の数さえも上回っている。とくに、1年以上病欠で欠勤している長期疾病給付の受給者は、35%以上も上昇し、さらに増えている。単純にデータからいうと、「病気・ケガにより働くことができず、福祉給付で生活をする者が激増している」ということになる。

例えば、事故などで障がい者になり、一生涯、労働市場に参画することが不可能と診断されると、疾病給付金(コムーネから支払われる)から、障がい者年金(国から支払われる)の受給へと切り替わるが、申し込みのあった案件を処理するまでに時間がかかり、長期に亘る待機期間の受給が疾病給付金の支出を押し上げているとも言われている。コムーネと国からの合計した疾病給付金は140億クローナ(約3000億円)に上り、本来子ども、高齢者といった領域に使われるべきだった予算が、就労可能人口の福祉手当に費やされているわけである。

労働環境リサーチセンターによると、「労働者一人につき、1年間に7日の病欠が妥当」という目安があるというが、もちろん業種、年齢、性別など様々な条件で何が「妥当」かは変わり得るし、ケガや病気も業務によって勤務可能かどうかは異なるため、雇用者側は、国内平均である「一人当たり年間11日の病欠」を目標として設定するべきだ、としている。

1年間の病欠の後も、職場復帰する率はデンマークではたったの32%であり、これはスウェーデンの53%と比べても極めて低い(労働状況に関する企業の情報システムHPより)。そのため、政府は労働市場庁を通じて『病欠−共同責任』というレポートを出して周知を図ったり、公共のオフィスに可動式の机(腰を痛めないようにという配慮)を導入したり、会議などの際にチョコレートなど甘い菓子の代わりに、果物などを提供する予算をつけたりと予防面にも力を入れている。

病欠を届ける場合には、医師による証明がいるなどいくらかの手続きがあるが、病欠中に解雇してはならないという既定があるので、療養が長期に亘っても解雇にはつながらない。風邪などの短期間の欠勤の場合も、労働者を守るための厳しいルールがあり、例えば昼間12時までに次の日の仕事に来られる場合には本人が職場へ連絡する、といった規定があり、雇用者側は病気の者に「明日来られるか」といった問い合わせをしてプレッシャーをかけてはならないという規定があり、これが労働者の権利として守られている。

子どもが病気の際も、一日目から給料はそのままで休むことができる。こうしたシステムは、人間は病気になるものだ、そうした弱い時には助けが必要なのものだという共感的な立場に立っているが、財政としてはなかなか厳しいところにあるだろう。

UrbanはSvensk Dagbladetを引用し、スウェーデンが疾病給付受給者を減らすためにこの7月1日から適用される新しいルールを成立させたことを報じている(2008年5月22日、Urban)。記事によると、現在病気・怪我を理由として欠勤しているスウェーデン人のうち、少なくとも4万人がこのルールによって給付金を受ける資格を失うことになり、それにより国庫は2011年までに135億デンマーククローナ(約300億円)を削減する見込みだという。現在、スウェーデンでは18万7000人が疾病給付を受けているが、職場復帰に対してプレッシャーをかけることで、2011年にはその数を6万人は減らす予定だ。人口規模や社会システムの近い、近隣北欧諸国の決定はしばしば参考にされるため、デンマークでも今後スウェーデンの例に倣って受給者を減少させる議論が高まることは容易に想像される。

世界一幸せな国と抗鬱剤消費の関係 でも触れたが、とくに、うつ病など治療に時間のかかる病気に罹った際に、その療養必要性が勤め先に認められ、生活の糧が与えられているのはどれだけありがたいことかと思う。病気の者は、失業中であっても求職活動等の義務を負うアクティベーションに参加しなくてもいいため、受給は安易にされ、悪用されている面もあると聞くこともあるが、治療が長期間に亘る場合などは、役所の職員と面談をして、いつ復職できるかなど具体的な相談をすることも盛り込まれ、単純に受給できるわけではない。疾病給付金は、労働者の権利として非常にありがたい反面、制度として継続させるには非常に多くの予算を必要とするところに難しさがあるといえよう。「生産性」の議論からいっても、疾病欠勤は大きな問題である。順調に回復し、職場復帰するまでの辛い時期の生活の糧というのが福祉の大義名分である以上、休職後の職場復帰率を高め、病人を「病気のまま」にしておかず、復職へモチベーションを見出させることが今後も重要な課題となるだろう。
posted by Denjapaner at 01:20| Comment(1) | TrackBack(0) | 社会福祉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめてコメントいたします。
世の中にはたくさんの人が病気や怪我で困っていますよね。
そんな方々に物理的にも精神的にも、手助けできることはないかと日々模索しています。
私は肝臓移植や腎臓移植などの臓器移植について勉強中です。
少しでも多くの人たちを助けらればと考え、微力ながらも行動しています。
こちらのサイトは参考になり大変助かりました。
ありがとうございました。
Posted by 腎臓移植について at 2011年03月24日 15:51
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