2008年04月14日

賃上げ闘争のストライキの陰にある労働組合 の力

2008年4月16日(水)からデンマークでは再び、公共医療セクターでの大規模なストライキが予定されている。看護師、理学療法士、ホームヘルパー、保育士など、医療・福祉に関わる機関が一斉に賃上げを求めて長期戦覚悟でストライキに臨むようだ。実際のストライキとその背景については、本番が始まる水曜日以降に詳述するとして、今回は労働組合についてまとめてみたい。

デンマークの労働者の権利を考える際には、労働組合の存在を抜きには語れない。労働組合の組織率が世界一といわれる北欧諸国(スウェーデン91,1%、デンマーク80,1%、フィンランド79,3%:(ILO「世界労働報告」97/98年版 10年も前のもので残念だが、英語でILOからサーチしても見つからなかった)では、労組が非常に強い力を持っており、組織的なストライキやメイデー(デンマークでは、12時以降は退勤の半休日であり、熱心な者もそうでない者もFælledparkenという公園に集まる)のイベントなども日本とは比較できないほどの規模である。

デンマークでは、17の職種別に分かれている労働組合を、LOと呼ばれる全国連合が傘下に置き、全体を統括する形になっている。(DAと呼ばれる使用者の組合がやはり13の職種の経営者団体を統括しており、これがLOのカウンターパートとなっている。)LOは1898年に成立しており、今年で110周年を迎える。こうした思想をネオ・コーポラティズム(または社会コーポラティズム)と呼び、スウェーデンとともにデンマークでも典型的な構図を取っている(前述、Wikipediaのリンクは説明が詳しく、わかりやすい)。

17の職種別労組の各名称は以下に暫定的に訳してはしておく(時にひどい訳だがご容赦!改善案があればぜひコメントでご教示下さい)が、基本的に( )のなかのイニシャルで呼ぶのが定着しているため、正式名称を知らない人さえも多い。なお、以下に示す組合員の数はWikipediaにより、各労組のHPに掲載されている数と必ずしも一致していない。

*職種協同組合 (3F)、約382,000人:交通、土建、製造業、農業、森林、園芸、清掃、ホテル・レストラン、新聞・雑誌の配布といった職種に就く労働者を対象。HPもデンマーク語だけではなく、ポーランド語、リトアニア語、英語、ドイツ語、ウクライナ語で労働者の権利について説明しており、非熟練労働に従事する外国人労働者への配慮が窺われる。
*デンマーク商業・事務組合(HK)、約375,000人。:小売店、事務に従事する労働者を対象としているため、組合員の75%が女性。中でさらに小売、市町村、国、民間の4つのセクションに分かれている。組合員の年齢別分布を見ても、年齢によるばらつきがないのが見て取れる。
* 職種と労働組合(FOA)、約203,000人:高齢者・障害者福祉、保育、給食・清掃、消防、建物の解体・保全などに関わる労働者を対象。今回のストライキは、このFOAが中心になって組織している。
デンマーク金属、146,000人:金属工、機械工、電気工、情報技術の領域に従事する労働者を対象。大学教育ではなく、中期教育を受けた実際的な製品の修理などをする「手に職」系の者が中心。
*デンマーク木造・産業・建築組合(TIB)、約70,000人:大工、家具製造、床板貼り、ガラス製造などに関わる労働者を対象。上の項の「金属」と同様に、まだ教育課程を終えていない「見習い」の若者も組合員になっている。
*栄養・嗜好品労働組合(NNF)、約36,000人:パン製造、製肉業、乳製品製造、菓子製造、タバコ製造に従事する労働者を対象。
*専門技術者国内組合(TL)、約31,200人:土建、企画、デザイン、計算など
*社会教育士(ソシアルペダゴー)組合(SL)、31,000人:ソシアルペダゴーの仕事については、職業短期大学の発足とペダゴジーの範疇 参照。家庭環境に問題を抱える子ども・若者、障がい者、精神障がい者、麻薬等の常用者、ホームレスなどと関わって働く者。
デンマーク電気組合、約30,000人:電力、コミュニケーション、警備保障、警報システムなどの産業に従事する者を対象。
デンマークホワイトカラー組合、サービス組合、21,700人:銀行、不動産業、飛行機産業、時計製造業、歯科技師、眼科検査技師など、ホワイトカラーの職に従事する者を対象。
デンマーク塗装組合、13,600人、建物だけではなく、看板、ワゴン、船などの塗装も含まれる。
デンマーク ブリキ・金属管労働者組合、9,000人:VVSと呼ばれる、暖房装置、換気装置、保健衛生機器を扱う業者のなかで最大の労働組合。
デンマーク鉄道組合、約5,500人:国鉄、私鉄の労働者を対象。
デンマーク 理美容師・メイクアップアーティスト組合、約5,400人:
*軍隊志願兵・伍長組合(HHKF)、約4,400人:「志願兵」と訳したのは、この単語が兵役ではなく志願した上で契約に基づいてくる「新参兵」を指しているからである。伍長というのは辛うじてその上にくる最下位の下士官のようだ。18歳以上の男性には兵役の義務のあるデンマークだが、兵役としてくる新参兵はこの労組の管轄ではない。
デンマークアーティスト組合、約1,500人:
サッカー選手組合、約650人:
ほかにも労働組合は多数あるが、それらはこのような傘下組織から独立した「単体」の存在である。これは、その昔LOが社会民主党と硬い結びつきを持っていた際に、LOに支払った組合費が社会民主党へ行くことを快く思わなかった者が、別に独立した労組を立ち上げたりしたためだという。こうしたLOに依存しない独立労組は「黄色い労組」と俗称でいい、黄色はディスカウントを連想させる色であり、安い組合費で会員を増やそうとしているようだ。失業保険などの補償面では同じというが、現実には、やはりより多い組合員を抱えた労組は強いし、影響力も大きい。

労組の職場代表も、大きな意味を持ってきた。職場で問題があれば、まず相談する場として職場代表は認知されてきた。しかしながら、近年は労働組合の力も、そして職場代表の若い労働者に対する認知も弱まってきたといわれている。例えば、2008年3月31日のUgebrevet A4の記事は、若者が職場で問題があった際に、労働組合の職場代表を介することなく、直接上司のところに掛け合うか、同僚との相談に落ち着いてしまうさまを論じている。記事によると、ノボ・エンザイムという世界でも有数の酵素を扱うデンマークの製薬会社に勤める340のHK(商業・事務組合)員たちが職場代表をどのように有用に生かすかを知らないことに頭を痛めているという。A4の調査によると、30歳未満の賃金労働者が職場に労働組合の職場代表がいるかどうかろくに知らないという。職場に問題がある際に、30歳未満では2人に1人が上司に、4人に1人が同僚に相談に行くところで、職場代表に相談する人は7人に1人に過ぎないことを嘆く(30歳未満では、やはり上司に相談するのは2人に1人だが、職場代表に相談するのは4人に1人という)。

同じ調査によると、30歳以下の若者のうち、23%が労働組合に所属しておらず、その割合は30歳以上では14%である。5人に1人が、労働組合に加入する意味を見出さず、10人に3人が労組のバックアップなしにも自分の力で解決できると考えている。

同様に、2008年4月14日のPolitikenは、30歳未満の若者にA-Kasseと呼ばれる共済の失業保険が周知されていない旨を嘆き、案じている。デンマークでは、失業といった「大事」の際の保障は国から当然行われるものだという暗黙の理解があり、30歳未満の若者のうち、実に46%がは実際はA-kasseという共済費によって初めて受給資格を持つことが可能な、ダウ・ペンゲ(日当)という共済失業保険を、何もしなくても発生する当然の権利と受け止めている現実が明らかになった。失業保険として、もう一つ存在する公からのサポートに、コンタント・イェルプ(現金給付)という市町村から給付される手当があるが、それは家や車を売ることで生活する糧があるのであれば、それをして、生きるうえで厳しい現実に即した上で初めて受給資格が得られるのであるが、それらを理解していない若者が多いのだという点を扱っている。(この二つの失業保険に関しては、福祉国家の失業給付の現状と未来でも言及している)

労働組合を通した共済システムは万一の際に自らを救済するセーフティネットで、まさにデンマークの「フレキシキュリティ」の根幹を成すアイディアなのであるが、若者に周知されておらず、結果として貧困を生み出すことになっている現実があるようだ。

それでも日本の18%程度の労働組合組織率からすると、80%を超える組織率は全く別世界の話だが、日本でも労働運動の力・影響力と歴史を改めて鑑みる必要があるのではないか。世界の片隅でニュースを読むのmahounofuefuki氏は、「東京新聞『派遣の反撃』を読んで」において、労働運動の新しい形の息吹を記されたが、こうした「古臭く」伝統的なものが、実は若者の今の問題にも密接に関係していることを実感される機会を持つことが必要であろう。

デンマークでも、こうして古き時代の組織された労働組合は姿を変えていくが、その影響力は今もデンマークでは無視できないものである。中途半端な解説となるが、水曜日以降のストライキの様子を見守りたい。
posted by Denjapaner at 02:18| Comment(1) | TrackBack(1) | 民主主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Nice blog thanks :-) just what I needed
04月29日
膠着した労使交渉でも尊重される、メイデーの意義
Posted by frisør at 2011年08月28日 15:24
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東京新聞「ハケンの反撃」を読んで
Excerpt:  マスメディアが社会問題を報じる際、たいてい「こんなひどいことが起きている」「表向きはそうだけど実際はこうだ」という実態の暴露と告発に終始しがちで、もちろんそれは十分に意義があるのだが、取り上げる問題..
Weblog: 世界の片隅でニュースを読む
Tracked: 2008-04-14 21:08
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