2007年12月11日

世界一幸福な国と抗鬱剤消費の関係(1)

2006年に発表されたイギリス、レスター大学の心理学研究者エ−ドリアン・ホワイトによる、世界の幸福度調査(日本語で読めるものは、このリンクが見やすい)で、デンマークが第一位に選ばれたことは知られているかもしれない。この調査に基づけば、日本の幸福度は第90位であった。この調査では、健康、富、教育が幸福度に大きく影響するということであり、小さな国のほうが幸福度が高い傾向が見られるという(健康トレンディ参照)。

個人的には、こうした国際比較を含んだ量的分析にはやや懐疑的である。日本人はそもそもこういった質問調査に馴染まず、「幸福ですか?」と聞かれて、単純に「はい」と答える国民性ではないと考えている。「幸福ですか」と聞かれようと、「幸福ではありませんか?」と聞かれようとも、結局、中庸を好んで答える人が多いのではないだろうか。10のスケールがあっても、0や10という極の答えをする日本人はほとんどおらず、6や7で謙虚に自分の幸福度に満足を示す例が多くでるように思われる。

さて、そんな幸福な国デンマークだが、OECDの「図表で見る世界の保健医療2007(Health at a glance 2007)」によると、ヨーロッパ諸国では抗鬱剤の使用が激増しており、中でもデンマークの処方量は2000年から2005年までの5年間で70%以上増加し、OECD諸国で二番目(一番はアイスランド)となったことが報告された。デンマークでは、抗鬱剤は通称「ハッピー・ピルズ」と呼ばれ、陰鬱な気持ちを取り除くためによく処方されるようだ。

人口1000人当たりの一日の抗鬱剤の処方数を見てみると以下のようになる。(Politiken、2007年12月10日の図を参考に作成)デンマークの増加数が一番の伸びを示していることと、アイスランドの圧倒的な処方数に注目されたい。

国名      2000年   2005年   増加数
デンマーク   35      60      25
アイスランド   66      90      24
オーストラリア 46      67      21
スウェーデン  48      66      18
フィンランド   36      52      16
ノルウェー    41      52      11
フランス      40      50      10
イギリス      38      47       9
ドイツ        21      29       8    

Ugebrevet A4の記事では、スポンサーなき医師団(国境なき医師団のもじり)のインガ・マリー・ルンデ(Inga Marie Lunde)のコメントが引用されている(Ugebrevet A4、第43号、2007年12月10日)。印象的なので、そのまま引用しよう。「これまでこれほど失業率が低かったことはかつてないし、これほどの福祉が充実していたこともないし、これ以上の好景気だったこともない。それなのに、かつてなかったほど多くの国民が精神的な問題を抱えている。」

抗鬱剤は、濫用による副作用として、攻撃的になったり、不安、精神異常や自殺誘発にもつながる惧れがあることも報告されているという。コペンハーゲン大学薬学部のクラウス・ミュルドロップ(Claus Møldrup)は、(社会規範によって)、南ヨーロッパの国々では北欧の国々に比べて、精神疾患が受け入れられにくい土壌があることを指摘し、また国内に抗鬱剤を生産する大きな企業があることを考えられる理由としてあげている。

Politikenは、国連の人間開発指数によって、アイスランドが「世界一住みやすい国」に選ばれたばかりであることをあげて、この抗鬱剤消費との矛盾を考察している(2007年12月10日、Politiken)。

新聞等の記事を見る限りでは、医師たちの論調は「これまで適切な診断が行われず処方されてこなかったケースが適切に処方されるようになったため」「現状にようやく追いついた」といったものであり、近代病であるストレスや、暗い北ヨーロッパの地域病であるとも言える鬱病とは長くリラックスした付き合い方をするのが賢明と捉えているようだ。タブーからの解放を「進んでいる」と見るのであれば、現代の状況の中で精神を患っても薬の処方で乗り切るというのは「先進国」という考えなのかもしれない。世界の自殺率を見ると、上位に位置する国は東欧・ロシア系の国が高いようだが、上位に入っているOECD加盟国ではハンガリー(5位、ちなみに処方数は23)が挙がるくらいで、上の表にあげた国々で自殺率が比較的高いのは、フィンランド(15位)、フランス(19位)くらいである。抗鬱剤の処方と自殺率には相関関係があるようである。自殺率が高い社会は問題を抱えているのだろうが、多量の「ハッピー・ピルズ」の使用によって、世界一幸せな国民に選ばれたのならば幸せといえるだろうか。人間の繊細さと技術の発展のバランスの取り方に疑問が残る。
ラベル:医療 福祉国家
posted by Denjapaner at 10:06| Comment(1) | TrackBack(2) | 医療問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
日本の病院では鎮痛剤の使用ですら慎重で(モルヒネ系鎮痛剤を使用するには、たった1錠でもなんと毎回5枚以上の書類を書き、金庫で管理)、「くせになるから=耐性ができるからという意味ではなく、「痛みにがまんが効かなくなるから」という意味で処方側もされる側も使用を躊躇しているようです。それだけ日本人のがまん度は高く(名誉なことであるかは別)、それに対する日頃からのちょっとしたストレス耐性への努力もされているわけで。
どちらかというとストレスというもの事態がそこまでマイナスなイメージではなく、「それを乗り越えることで見えてくるものがある」とか、「強くなれる」といったプラスなものさえありますよね。

ところがデンマークはストレス=悪なところがあるのではないかと思います。なるべく避けたいけど避けられないものは、薬でも何でも使って乗り越えましょうと。
たとえば、デンマークの病院では痛み止めと同時に抗鬱剤や抗不安薬のようなもの(afslappende medicin)が出されることが多く、それらによる慢性的な疼痛管理で副作用(多用によって鬱の誘因になり得る)が出るのも「致し方ない」と。そしてまた別の薬を処方…という具合。

痛み(ストレス)の感じ方というのは千差万別、非常に個人的なことなので、日本のようなのがいいのか、デンマーク式がいいのかわからないけど、痛みをけっこうポジティブに考えている日本人の私としては、なかなか理解に苦しむところもあって難しいです…。
Posted by kanahei at 2007年12月12日 20:10
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世界一幸福な国と抗鬱剤消費の関係(2)
Excerpt: 「世界一幸せな国」として、デンマークに関心を寄せている方が多いようだ。誰もが幸せになりたくて、世界にある「幸福な国」からそこへ至る鍵を掴もうと検索しているのかと思うと、このブログが単純にその鍵を差し上..
Weblog: デンマークのうちがわ
Tracked: 2008-05-19 00:54

世界一幸福な国?デンマーク
Excerpt: 「生まれ変わるなら、どこの国の人がいい?」という質問には、迷わず日本と答えます。
Weblog: 主張
Tracked: 2009-03-13 12:26
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