2007年12月01日

選ばれし移民は去り、招かれざる移民は周縁に

この11月に出されたレポートで、アムネスティ・インターナショナルは、デンマークは国家的に移民の周縁化し、差別を助長していると厳しく批判している(『国家が差別をするとき』 Naa staten diskriminerer、アムネスティ・インターナショナル、2007年11月)。国民総所得の0,94%(2005年)を政府開発援助へ拠出し、人道的援助にも大きな力を注いでいるノルウェー(国民総所得の0,7%以上を政府開発援助へ使っている世界5カ国のうちの一つ)や、ヨーロッパ一寛大な移民政策とランキング1位になったスウェーデンという北欧の兄弟たちに比べて、デンマークは不名誉な勲章をもらったといわざるを得ないが、今回は、このレポートについて取り上げたい。

デンマークでの失業者に対する福祉手当に関しては、以前にも福祉国家の失業給付の現状と未来に書いたように、「コンタントイェルプ(生活保護給付金)」といわれるものと「ダウペンゲ(失業給付金)」と言われるものがある。失業保険に加入しているかどうかによって、この二種類がのうちどちらかがデンマーク国民の失業生活を支えることになるわけだが、実はもう一つ、「スタートイェルプ(初期援助)」と呼ばれるものがある。しかしながら、これは過去8年間のうち7年間デンマーク国内に居住していなかった者を対象に、上記の二つの失業給付の代わりに支給されるものであり、その受給対象は94%がデンマーク人以外の民族背景を持つ移民・難民であり(2006年)、とくにその多くが難民保護施設の難民とその配偶者であるとされる。

つまり、アムネスティーの批判は、エスニック・マイノリティーを対象として、マジョリティーから区別したルールを適用することにより、彼らをヨーロッパの貧困線(下部、注参照)以下の生活に貶めていることを指摘し、国家が差別をしていることに向けられている。年齢や家族構成により、金額は変動するが、「スタートイェルプ」の給付金額は、通常の生活保護給付金に比べて約半分であり、物価の高いデンマークで貧しい生活を余儀なくされている。「スタートイェルプ」受給者が生活保護給付金を受給する資格を得るには、2年半のフルタイムの仕事を持っていることが義務付けられるが、受給者たちは母国での戦争体験や拷問をうけた経験などからトラウマを負っているケースも多く、心身を患っており、健全に働ける状況にはない。そのため、結果としてはいつになっても生活保護を受ける身分になれない。アムネスティの提案は、この「スタートイェルプ」を撤廃し、生活保護に一元化するか、あるいはヨーロッパ人権条約の第12議定書を批准するように、といった提案を出している。

生活保護給付金を受給できたからといって、楽に暮らすことと程遠いことは失業対策は、社会的弱者への締め付けかにも書いた。基本的に、権利の上に座っていることを許さず、社会へ参画するプレッシャーを絶えずかけて、税金を徴収することは忘れない国である。

今、失業率が3%ほどまで下がっているデンマークでは、労働力不足が問題である。日本でもフィリピン人看護師・介護福祉士の受け入れが決定され、実施されようとしているが、やはりデンマークでも医療・介護の領域での人手不足は深刻であり、これを外国人枠で埋めたいという思惑は同じである。また、高い課税率によって優秀な頭脳が対価を求めることにより国外へ行ってしまうことも大きな悩みとなっている。

そのため、このように貧しい移民たちが福祉国家の隅に追いやられている中、高学歴・高技能の外国人労働者をポジティブリストに載せてビザを取りやすくしたり、税制優遇等の措置によって呼び寄せたりするような努力も続けている。実際には、高学歴かつ優秀な移民であっても、発展途上国からその配偶者を呼び寄せるのに移民局が渋っていて、優秀な頭脳が定着しない例がいくつもあるようである。パキスタン人で、デンマーク工科大学の博士課程で研究を続けていた学生が、配偶者を呼び寄せられずに他の国へ研究環境を移す決心をしたことで、移民局が大学側から強く非難されている記事が載ったのもつい最近である(2007年11月12日、Politiken)。

現在、デンマーク側の企業・大学等との雇用契約によって就労ビザが出るためには年間1000万円程度(450,000kr)の収入で契約していることを証明しなければならないうえ、学歴等をポイントで査定し(有名な例では、カナダと同じ)満たしていることが求められ、これはかなり高いハードルとなる。研究者は最初の3年間は所得税を25%しか払わなくてよいなど、優遇措置はあるが、3年を超えてデンマーク人と同じ税率となるのであれば別の国へ行くと答える高学歴・高技能の外国人がほとんどである(2007年11月30日、Politiken)。会社内の国際的環境を促進したい企業の思惑と労働者側の期待する見返りがあわず、「つかの間の恋」となっているようだ。この記事によると、アドバイサーたちは、これらの要件を軽減化し、年間600万円程度(250,000kr.)の収入が確約されれば就労ビザを支給したらいい、3年間は所得税25%という選択だけではなく、3年後の延長期間も所得税を33%に抑えるという選択肢も出すべきだという提案を出したようである。

「ただの移民」をできるだけ受け入れたくないデンマーク国民党などの意向と、低技能・高技能の職場での労働者不足の現実は、この国で生まれて死ぬことを前提として作られた税制度の中で、一時期を過ごす外国人の「拠出する税金に見合わない就労期間」を生み出すことになり、そのことが誘致のジレンマとなっている。内部完結する税制と労働市場の需要が必ずしも一致するわけではないことに、問題の複雑さを考えさせられる。

参考:EUによる貧困線の公式な定義としては、その国の国民の平均年収の60%に満たない者、となっており、デンマークで対象者は9%、3万人程度とされている。デンマーク国内でも、目安としての貧困線を作ろうという議論は、左派勢力を中心として根強く、数年前からその努力が続けられているが、この選挙の直前に結局、定義を作るのは難しいという結論に達したことが報告された。
posted by Denjapaner at 03:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 移民政策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私もデンマークで働きたい人材の一人です。近い将来に語学留学し、院で教育分野を研究したいと考えています。できれば、現地のインターナショナルスクールなどで働いたり、日本人学校で勤務したりしたいと考えています。ハードルは高いけれど・・・

でも、私が2年前にデンマークを訪れた当時、トルコ系の労働者が多くみることができました。私が疑問に思うのが、なぜこんなに厳しい規制なのにアジア系の移民者の労働が目立っていたのでしょうか? 不思議でたまりません。ビザ取得はそんなに容易なのですか?

日本人のビザ取得はどうなのでしょう?やはり困難なのでしょうか?気になります。詳しいところを教えてください。

末永 福恵
Posted by 末永 福恵 at 2009年05月20日 00:57
難しいと言っておけば競争率が下がりますから、大変都合が良いんですよ。
Posted by 永末 雲霞 at 2011年04月04日 14:06
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