2007年11月27日

省庁改組と改名の裏にある意図

少し遅くなったが、先週末、総選挙の結果を受けて、刷新内閣の顔ぶれがお披露目された。誰がどの省の大臣となったのかという詳細は他のページに譲るとして(明日以降に、国会のページにも更新される予定)、19人のうち11人が50歳以下(うち、31歳、35歳、36歳の30代を含む)という若さは目に付く。

2007年11月26日の東京新聞の記事で、英国と比較して日本の議員が横並びに閣僚職を経験するとあったが、少なくとも現行のデンマーク政府は、英国型よりは日本型に近いようだ。いつかの省の兼任大臣がいるため、閣僚は全部で19名となり、このうち新任と解任による入れ替えはたった2名で、他は全て留任(11名)か別の省庁の職への移行(6名)となった。

過去にもアナス・フォー・ラスムッセン(Anders Fogh Rasmussen)首相が組閣する際に毎度「口説」かれ、その度に断り続けていた、ビエテ・ロン・ホーンベック(Birthe Rønn Hornbech)が今回は任を引き受け、難民・移民統合省及び教会省の大臣に着任したことに注目が集まっているが、その他にはそれほど目新しいことはないようだ。彼女の強さは、デンマーク国民党の移民排斥政策にも打ち勝てるのではないかと、現行の移民政策に不満を抱く者たちの中でも期待が集まっているようである。

さて、ここでは、省庁の改組・改名をテーマにして書いてみたい。デンマークでは組閣の際に、しばしば省庁が改組・改名される。「社会(social)省」と呼ばれていたものが「福祉(welfare)省」に、そして「内務・保健省」は「保健・予防医療省」と名を変えた。「交通・エネルギー省」は改組され、「交通省」と「気候・エネルギー省」に分けられた。枠組みの改組・改名とはいえ、当然、そのレトリックを通じて国民の支持と理解を得ようと政府のフォーカス領域を反映させており、その意図を読んでみるのは面白い。

2007年11月26日のInformationは、これまで「社会省」のもとに管轄されてきた事柄が、「福祉省」という中流階級をターゲットにした福祉を売りにすることで、社会の一番下層にいる弱者を見捨てることになるのではないかという議論を載せている。政治学者かつ社会福祉国家研究センター長である、ヨーン・ヘンリック・ピーターセン(Jørn Henrik Petersen)は、この言葉の入れ替えによって、社会民主政権の長い伝統下で、福祉はさまざまな社会の現象の傘の下に位置する「社会プロジェクト」であったが、現、自由・保守政権はそれを180度入れ替え、いまや「福祉」の下にさまざまなプロジェクトが位置するようになったと解釈しており、この指摘は「福祉」を巡っての攻防を現すようで興味深い。福祉は「売れる文句」となったのである。

以前に、日本から教育・社会学の教授たちが見えた際に、「デンマーク語の"social"、あるいはデンマーク人が言う英語の"social"は、ドイツ語の"sozial"と同じく、“社会”というよりも、日本語で言う“社会福祉”といった内容を包摂しているのではないか」という指摘をされ、短い視察期間中ながらもその鋭い洞察に感心した。まさに、「社会省」は社会の下層で、アルコールや失業、家庭崩壊といった問題を抱えている人々を助けることを課題としていたが、それが「福祉」という言葉で置き換えられた途端に、中流家庭をターゲットとした「子育て支援」や「医療費削減」など口当たりのいい言葉でのベネフィットを宛てる省庁と生まれ変わるかのように想定されるからである。無論、現・福祉相であるカーン・イェスパーセン(Karen Jespersen)は(下流層を置き去りにするという)心配は危惧に過ぎないと述べているが、いずれにしてもこの改名によって中流階級の歓心を買おうとしたことは明らかになったといえるのではないか。

また、新しくできた「気候・エネルギー省」だが、似た名前のものに、「環境省」が存在しており、前環境大臣だったコニー・ヘデゴー(Connie Hedegaard)は今回、「気候・エネルギー省」に移ったが、この不明瞭な区分によって、これまでの環境大臣としての経験と才覚を発揮できないのではないかという声も出ている(2007年11月24,25日、Information)。

環境や気候を考える上で、近年増加を続けている自動車の問題もあり、交通との関連は外せないため、これまでは環境と交通が一つの省庁下にあったが、これが分割されたことは由々しい、と環境運動グループNOAHはいう。ロスキレ大学の交通研究者、ペア・ホマン・イェスパーセン(Per Homann Jespersen)は、政府が気候の問題を重要視していないのは明らかだと批判している(2007年11月24日、Information)。

交通税は、小さな都市国家であるシンガポールでは1965年から導入されているが、ヨーロッパでは1985年頃からノルウェーで導入されたのを嚆矢として、スウェーデン、イギリス、イタリアの大きな都市でも2003年以降実施されており、交通渋滞と排気ガス排出の抑制に効果を挙げている。コペンハーゲンでも同様の議論は何度も出されているが、政府の「税停止政策」に反するという理由で取り下げられている。気候・エネルギー省の管轄の範囲でどれだけこれらの問題に取り組めるかが早くも気になるところである。

省庁の改名・改組は、問題の現状と何が有権者にとって魅力的な文句となるかを反映しているようで、非常に興味深い。コペンハーゲンで2009年に開かれる環境トップ会議に備えて、早くも気候・エネルギー相のコニー・ヘデゴーは、今後ブラジル、メキシコ、南アフリカ、ロシア、日本を訪ねたり、バリで行われる国連の環境会議に参加したりと意欲を燃やしている。日本は、ハンガリーから二酸化炭素排出権を購入することを決定したところであり、経済的手段での解決と環境への配慮で妥協を探っているところである。デンマークの福祉や環境政策がどれだけのものを実現できるか、今後を見ていきたい。
posted by Denjapaner at 20:19| Comment(0) | TrackBack(2) | 政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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