2007年11月19日

混迷するテロ概念の正当性

テロリストorレジスタンス戦士、テロリズムor解放のための抵抗運動という定義は、恣意的な解釈に基づくことになり、双方の明確な線引きは難しい(Wikipedia「レジスタンス運動」項参照のこと)。テロリスト/テロリズムとの闘いでも書いたように、将来に予測されるテロ攻撃に備えた早急な政府の対応は不可避であり、2001年の9.11を受けて、日本と同様にデンマークでも法の整備が行われた。Userneedsという調査会社が行ったテロに関する質問調査によると、実に回答者の72%が、2001年9月11日以前に比べてテロ攻撃を受ける可能性が高くなったと実感し、さらに48%が1年前と比べても危険は高くなったと実感していることがわかっている。(2007年11月19日、Nyhedsavisen

そして今、デンマークでは初めて、テロと正当な自由闘争の線引きが法廷で係争中である。2007年9月20日に初めて法廷で扱われ、今日11月19日に最終判断が下されることになっている。これは、デンマークのFighters+Loversという会社が、パレスチナ解放人民前線(PFLP)やコロンビア革命軍(FARC)のロゴを印刷したTシャツを、国内の七つの店舗で販売し、売り上げからTシャツ1枚につき5ユーロを、これらの組織の平和的な活動を支援するために寄付するものであった。(Fighters+Loversのブログはこちら。英語版へのリンク。Tシャツの写真も。)デンマークを初め、ヨーロッパの国の左寄りの若者の間では、例えばチェ・ゲバラ(Ernesto Rafael Guevara de la Serna)を革命戦士として憧れの対象にしており、デモンストレーションでも彼の顔のついたTシャツを着ていたりする様子をよく見かける。こうした様子からも、政治的なスローガンとファッションの組み合わせを、クール!と捉える流れが見て取れる。

しかしながら、パレスチナ解放人民前線は、EU・アメリカ・カナダ及びイスラエル各国政府によって、コロンビア人民軍の革命武装勢力はEU・アメリカ・コロンビア各国政府によって「テロリスト組織」として指定されており、デンマークの人々がこれらの活動を支援する・していると見られることは、外国のテロ組織とつながることになり、政府にとって避けたい事態であり、早急に法的措置を取って販売活動を停止させることが求められた。そのため、2006年2月には警察はインターネットでロゴつきTシャツを販売を主としていたFighters+Loversを閉鎖し、その売り上げの25,000kr(約60万円)を差し押さえた。そして、前述のようにようやく今年の9月に入り、7人のデンマーク人を被告として法廷での審議が始まり、その判定が下るところまで来ている。彼らの有罪が決まれば、10年の禁固刑になりうるという(2007年9月20日、Copenhagen Post)。禁固10年は、デンマークでは非常に稀な厳罰であり、政府がいかに深刻にこの事態を見ているかが窺える。被告らは、自分たちの活動を、ナチス支配下におけるデンマークでの抵抗勢力や、南アフリカのアパルトヘイト下のネルソン・マンデラ(Nelson Rolihlahla Mandela)らの活動に喩え、こういった活動も当時は「テロリスト」と呼ばれていたのだと主張している。11月19日の最終判決は、アムネスティインターナショナルや国連によるレポート、国内外のテロリズムの専門家による証言等をもとに行われることになっている。

しかしながら、第二次世界大戦中のナチ支配下におけるデンマーク抵抗運動のメンバーや、強制収容所の収容者とその子孫で構成されるHorserød-Stutthof会という組織も、FARCに対して活動支持の意を示すために小額の寄付を行ったが、彼らに対しては対テロ法制違反としての措置がとられていないところに、ダブルスタンダードではないかという批判が起こっている(2007年11月15日、Copenhagen Post)。司法的処置が取られるのであれば、それが普遍的な判断でなければならないのはいうまでもないことであり、事実とすれば批判に値する。

しかし、こうした事例が法廷に持ち込まれても、それで最高権力が絶対的な正当性を判定して終わってしまうわけではないところがデンマークの面白さである。シンクタンクUgebladet A4によると、職種協同組合3Fの下部組織である、コペンハーゲンの建築、土地、環境労働者組合は、このTシャツを製造・販売したFighters+Loversに対して、文化功労章を贈ることを決定したという(Ugebladet A4、2007年11月19日)。彼らは、パレスチナ解放人民前線やコロンビア革命軍が、EUのテロリスト組織と指定されていること自体に懐疑的であり、またデンマークがEU・アメリカのいうことに盲目的に追随しているだけだと批判的である。
国とその主張の正当性を争うには多額の資金がかかるため、Fighters+Loversで闘っている人々への象徴的支援として、この情報・文化功労賞という形で、賞金10,000kr(約25万円)を贈る決定をしたようである。法を遵守することはもちろん必要であり、コロンビア革命軍が麻薬製造や誘拐・殺害といった事態を起こしているのは承知しているが、彼らはまた学校や病院等も建てていると主張し、EU・アメリカといった大きな勢力の決定が国の決定を規定し、そのことで民主主義と組合の権利が失われていくことに対して強い危惧を示している。

国内でも、こうした双方からの意見が激しく対立しているが、その意見を表明する場・手段があることが、非常にデンマークらしく、ムハンマド事件の論争をも思い出させる。国際社会での決定あるいは法廷での決定さえも、必ずしも絶対的なものと受け入れず、自ら考えて主張する土壌があることは、どちらが正しいという「事実」をおいても非常に新鮮であり、興味をそそる。相容れない互いの主張を折衝することから、議論と話しあいで一段階上へ進んでいく社会は、民主主義を「対象」としてではなく、「ツール」として備えているといえるのではないだろうか。
11月19日に出るはずだったこの裁判の最終判決は、各地からエキスパートを呼んで大掛かりに証言などを集めたが、結局判定が難しく、最終判決を12月13日まで延期することが決定された。被告人らは、この件についての自分たちの正当性を信じており、この訴訟は極めて政治的な判決となるとし、いざとなれば最終的にはフランス・ストラスブールの欧州人権裁判所にまで持ち込んで闘うとコメントしている。

そして、さらに12月13日の裁判では、全員の無罪が確定された。この判決を不服とする者は、引き続いて上告する予定とのことである。
ラベル:民主主義
posted by Denjapaner at 20:15| Comment(3) | TrackBack(0) | 民主主義 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
決してこう単純にカテゴライズというか、ステレオタイプできるものではないけど、アメリカのユダヤ人ネットワーク、政治経済の影響力っていうのは大きいわけで、こうして「対テロ」議論を耳にするたび、彼らは復讐という名目で、逆の立場で歴史を繰り返そうとしているのでは、と思えてきたりもします。
大きな国を一つの方向へ動かすには何かわかりやすいテーマ(あれが善でこれが悪のように)っていうのは避けられないけれど、小さい国だからできることをデンマークは知っているし、実際にそう行動し(ようと努力をし)ているのは、やっぱりこの国の民主主義の捉え方というか、Denjapanerさんの言われるように「ツール」としての活用の仕方はすごいですよね。

グローバリズムしかり、アメリカ中心経済しかり、世の中がそういう流れになってくる中で、デンマークのこういう(いい意味で)「世界のあまのじゃく」なところは広まって欲しいとも思ったり。

いつも「へ〜そうなのか!」とか「ふんふん」と読ませていただいてますが、今回もとても刺激的でした。
これからも楽しみにしてます!

p.s.またワイン飲みつつ語りましょう!
Posted by kanahei at 2007年11月20日 04:45
正統な政府以外はある意味、すべてテロリストとなり得るし、そのテロリストが政権を取ると正統な政府となりますよね。テロリスト、テロリズムの定義はあってなきのごとしなのかなと思ってしまいます。チェも今では英雄ですが、カストロとともに単なるテロリストであったわけですしね。では彼らが悪か?というと、そういうわけでもないと私は捉えています。
今回のTシャツ問題、私なりにうーん、どこで線を引くのだろう?と考えてみましたが、難しい判断ですが、その団体なり個人がテロリズムにのっとった行動をとっているかどうかというよりも、彼らが無実の市民にどれほどの被害を強いているかというところで判断されるのかな?と思いました。テロかどうかではなく、例えばコロンビア革命軍がどれだけ無実の人を弾圧あるいは殺人をしているのかというあたりで、判断かと。テロかどうかという観点ではなく、国際法、刑法に触れるかどうか、というところかなと。
私の今の勉強にとっても非常に考えさせられるところの多いDenjapanerさんのブログです。今後ともよろしくお願いいたしますね!
Posted by halfkids at 2007年11月23日 07:07
>Kanaheiさん
愛想のないブログにも関わらず、初のコメント、ありがとうございます!(初コメに乾杯しておきました。笑)

デンマーク映画“Draebet”とかこのTシャツ訴訟とか、やはり無理なくこうしたことが起こる社会の現実があって、そこでこうした議論が生まれることを思うと、本当に「ムハンマド危機」もデンマークらしい必然を感じますね。

>Halfkidsさん
コメントありがとうございます!Halfkidsさんの使われる「正統」という漢字に私もむしろ気持ちを近くします。イメージはLegitimateなので、「正統」を使いたかったのですが、「正当」の定義が「正しく道理にかなっていること」で、「正統」は「正しい血統、系統」とコンピュータが言うので(笑)、記事では「正当」を使ってみました。何が「道理」かを問いながら。

チェ・ゲバラは夭折したからこそ、英雄視されているところもあるのではないでしょうか。おっしゃるとおり、アメリカとの関連で見たときのキューバの位置づけなど、まさに何が「正統」かを問わされますね。
つぶやきのようなブログですが、こちらこそよろしくお願いします。
Posted by Denjapaner at 2007年11月26日 01:21
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