2007年08月01日

進学状況から見える現実

つい先日、デンマーク全土で各高等教育機関の受け入れ成績の実態が公表された。毎年この頃になると、6月の高校の卒業試験の成績に準じてその先の進路希望を出した者に対し、結果の封筒が送付され、それとともに一般新聞に合格者の平均成績が載る。つまりは、日本でいうセンター入試の足きり基準の掲載といえば、イメージは沸く。

先日のリベラルな教育の危機に載せたように、近年の若年層の傾向としては高校を卒業後、比較的すぐに進学するが、それでも1,2年程度置いてから進学というのは今でも極めて普通である。つまり、前年度、あるいは前々年度の成績で応募できると思われる学校へ優先順位をつけた上で願書を提出するわけである。

今年は7月28日に、全国で4万6000人余りの生徒が志望校に合格を一斉に通知され、1万人余りが不合格通知を受け取った。応募は8校までできるが、結局受け入れ許可がでなかった場合には、来年あるいは数年後にまた志願書をだすということになる。

これまで、デンマークでは試験といえば国中で、成績は13ポイントのスケールを使っていたが、このデンマーク独自のシステムはEU各国との単位互換など時代の要請に合わせるには理解されがたく、そのため昨年から12を最高とした7つの新しいスケールに変えられることになった。この際の議論としては、5つの点が挙がっており、1.国際的に通用し、換算が可能であること、2.教育制度を一貫して用いられ、目的達成度を示すものであること、3.全ての教育段階で適用されること、4.各グレード間に、明白な違いがあること、5.最終総合成績を平均から計算することが可能であること、を満たすこのスケールが採用された(以前の13のスケールは3と5しか満たしていなかった)。現在は移行期であり、従来のものの方が一般にもまだ通りやすい現状があるため、時に13スケールがまだ使われていることもある。

これまでの13スケールについては、00(お話にならない)、03(受け入れられるレベルには達していない)、05(受け入れられるレベルにはもう一歩)、6(ギリギリで受け入れられるレベル)、7、8、9、(そこそこによい)10、11(とてもよい)、13(通常は出さないが、試験官も予想していなかったくらいよい)といった感じであった。ほとんど全ての試験で13を取った生徒は「デンマークのスーパー生徒!」といった扱いで、新聞にインタビュー記事が載ったりする。なぜなら、13は授業等で教えられたことのレベルを超え、独創的かつ優秀な実績を認められた際にのみ与えられるもので、単に優秀な者に最高評価として与えられるものとは質が違うからである。

少し見にくくなるが、これが新しいスケールでは、これまでの00(お話にならない)が−3【F】、03(受け入れられるレベルには達していない)と05(受け入れられるレベルにはもう一歩)の不合格が00【Fx】、6(ギリギリで受け入れられるレベル)が02【E】、7(平均くらい)が4【D】になり、8、9はまとめて7【C】、10が10【B】、11と13は12【A】とまとめられた。これはそれぞれECTSに対応させたものが【 】の中の英字である。これに伴い、絶対評価だったものが相対評価へ変わり、12【A】は全体の上位10%、10【B】はその下25%、7【C】は真ん中30%、4【D】はその下の25%、02【E】が下位10%と位置づけられた。合計はすでに100%となるが、これは−3【F】と00【Fx】が不合格に当たり、単位がもらえないからである。

さて、話は途中で少しずれたが、今年の進路希望傾向が公表されると再び批判は教育相に集中した。ベアテル・ホーダー(Bertel Haarder)というジャーナリスト出身のこの自由党の大臣は、新自由主義的な視点で、アメとムチを使い、若者を早いうちに労働市場に出すことや他のヨーロッパ諸国との競争に勝つことに焦点を置き、政策を進めている。そのうちの一つは、職業専門教育と称し、教員や看護師といった3年半程度の中長期教育を一括して国内の8つの継続教育センター(CVU)で統合して組織することである。2001年頃から少しずつ各校の統合を進めてきたが、2005年1月をもって1つの機関として法的にも確立された。これが本格的に機能し始めるのが、2008年の1月であるため、学生の志願状況はまさにこの政策に対する「消費者」からの評価であるという事情であった。

今回の志願状況を見たところ、希望に大きな偏りがあり、小中学校教員、保育士といった将来の子どもを支える教育を作っていくうえでの支柱となる上記の高等教育センターのコースを希望するものが激減したことがわかった。これは、ここ数年の傾向ではあったが、今回はそれにさらに拍車をかけ、20%程度も希望者が減ったため、「大惨事」とまで評され、新聞にもたくさんの論調が掲載された。

小中学校の教員不足はすでにだいぶ前から危惧されており、現在の教員たちのうち42%が50歳以上であるため、彼らが退職する頃には一斉に教員が不足し、すでに2015年には全体のうち13%の教員を無資格の者で代替せざるを得なくなるという(Politiken、2007年7月28日)。保育士の希望者も減ってはいるが、小中学校の教員に比べれば現職の平均年齢がまだ若いため、そうすぐに不足するということはないようである。

小中学校の教員志願者は2001年には4538人だったが、年々減少し、2007年は2896名であった。実に6年間で4割近く減少していることがわかる。この2896名が全て教員になってくれればいいが、このうち課程を修了する者は63%で、さらにそのうち7割がいつかの時点で(卒業後すぐとは限らない)小中学校での教職につくだろうという見込みであるから、教員養成が追いついていないのは見てとれる。

高等教育を志願する者のうち、10人に6人が女子であり、今年の傾向として女子には医学、法学、心理学がとくに人気があった。男子は、手に仕事をつけるような実践的な教育を選ぶ場合が多いが、在学中に「修了しなくても自分にはできるのではないか」という感覚から、途中でドロップアウトする者が多いという。給与の面からいうと、司法関係は高給取りではないようだが、女子はよりプレスティージの高い職を目指し、男子は現実的に経験を積んでいくといえそうだ。

小中学校の教員不足の問題は、教員に対するプレスティージが十分でないからだという論調も見られ、私も同意する。日本での教員養成学部の学生からの(不)人気や、来る団塊世代の一斉退職とともに共通の課題も多く、今後も追ってみていきたい。
posted by Denjapaner at 04:33| Comment(0) | 教育事情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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