2010年04月23日

教育から就労へ 就業経験の意味

近年、日本では青年の教育課程から就業への移行をどのように適えるかが注目されるようになっている。本田由紀氏の著書や濱口桂一郎氏のブログでもしばしば言及されるように、日本の高校や大学の教育が職業レリバンスが薄いことが、不安定な雇用の根にあるように思われる。この点においては、デンマークは他の欧米諸国と同様にジョブ型であるため、教育課程を通じて得た「専門知識」と就く業務(ジョブ)が密接に結びつきを持っているといえる。法学を学んだら、(誤解を恐れずにいえば、「たかだか」修士号を取っただけで)法律家と呼ばれ、弁護士や法律家になる道のほか、省庁の法令を扱う責任を持った職に就いたりする。同時に、「大学に進学する=(最低で)5年間かけて修士号を取る」という決定が、将来に就く職業と直結してされるものであることを物語っている。

それでも、一世代前に比べれば、現代の青年たちは断然に高い教育を受けるようになっており、大学もだいぶ大衆化してきた。高校や大学への進学率を調べようとしたが、出てくるのは「修了率」ばかりで日本とのフォーカスの違いがわかって興味深い。「進学」よりも肝心なのは「修了」という結果というわけだ。

2008年現在で、デンマークの人口の最終学歴は以下のようになっている。(教育省のレポート
デンマークの人口の最終学歴分布(2008年)

情報なし 2%
基礎教育(日本の中学校修了)25%
中等教育(日本の高等学校修了)44%
 −うち、普通高校・商業高校・工業高校課程9%
      専門学校などの職業課程 35%
高等教育(日本の短期大学、大学・大学院修了)29%
 −うち、短期高等教育(原則2年間。日本の短大修了)6%
      中期高等教育(原則3年半から4年間。日本の学士号修了)16%
      長期高等教育(原則5年間+3年間。日本の修士号・博士号修了)7%
この割合は、過去10年ほど大きく変わっておらず、とくに中等教育を最終学歴とする修了者の割合は変わらない。基礎教育修了の割合が高等教育修了者の割合に年々少しずつ移り、最終的に2008年の段階で10年前に比べて5%ほど増えた結果が上記である。「大学へ行く」という選択が、日本に比べて圧倒的に大きな意味を持つことを実感させる。

高等教育では入学後の修了率は70%から80%ほどであるが、中等教育は中退者が非常に多く、問題となっている。2007年のデータで、中退者の割合は、普通高校17%、大検課程28%、商業高校20%、工業高校27%、職業学校(専門学校)50%にも上っている(労働運動経済評議会レポート「数千の若者が職業教育からドロップアウト」)。そのため政府は、2010年には青年の95%が中等教育を、50%が高等教育を修了するようにと目標を掲げて、さまざまなキャンペーンをしてきたが、状況ははかばかしくなく、目標達成は非現実的と見られてきた(関連記事 実践経験での学びは理論学習に駆逐されるのか)。これまで、子どもは常に親の世代の受けた学歴の平均を追い越し続けてきたが、現在の青年世代は初めて親世代の学歴平均を超えない世代になるとまでいわれている(デンマーク産業連合の会長、ハンス・スコウ・クリステンセンのインタビュー、2010年4月21日、Politiken)。高等教育の進学率は、女子が53%であるのに対して、男子は37%しか進学しない。そのため、高校卒業資格、大学入学資格を得ながら、卒業後4年経っても高等教育へ進学していない6万人の若者に対して、地元の進路指導センターから揺り動かしの手紙を送り、進学へ背中を押す試みもしている。前年度にはこの手紙によって、600から900人の若者の進学への決断を後押ししたとされている(教育省HP、2010年2月5日)。

また、青年たちに数々の学び方の選択肢も提示している。そうした選択肢のひとつが、生産学校である。生産学校とは、通常の中等教育課程での理論学習についていくのに困難を抱えるような青年たちに対して、実社会とつながった何かを「生産」し、同時にその「仕事」に対してささやかながら給与を与えることで、同じ関心を持つ仲間や信頼できる大人(「親方」のような教員)と出会い、職業に就く喜びを感じられるようにする趣旨の教育施設である。分類的には、中等教育の職業学校(専門学校)課程に入る。

日本でもニートや引きこもりと関連し、このデンマークの生産学校が注目されるようになってきた。しかし、デンマーク国内では生産学校は話題に上げられたり、一般の人々の間で知られている存在ではない。同時に、そんなに簡単に「美しい実践」として理想化できるほど、扱いやすい生徒たちでもない。たとえばある生産学校では、半分以上がハシッシュ(大麻)を常用しており、多くが精神的病気を患っている。しかし、こうして教育課程に足を入れてくれた若者は、修了率を上げるための前提となる。そのため、問題を抱える彼らの心のケアに力を傾注し、彼らの中途退学を防ぐことへも力を入れ始めている。青年進路指導センター長のフィン・ランベックは、「現在中等教育課程に在籍している青年たちが、皆修了することができれば、95%の目標達成も難くない」としている(2010年4月19日、Altinget.dk)。そして、2010年4月23日のラジオ報道では、2008年夏から3年がかりで始められているコペンハーゲンの生産学校でのプロジェクトについて触れられた。コペンハーゲンにある4つの生産学校で、ソーシャルワーカーやサイコロジストと協力して、無料の心理相談を導入するなどの生徒の心のケアに重点を置く試みだ。現在までに350人がこのサービスを利用し、うち半数がすでに教育課程を順調に進んでいるという(2010年4月23日、DRニュース)。こうした中等教育課程からの「脱落」を防ぐイニチアチブに費用がおり、積極的に実施されているのを見ると、国が高い教育程度を備えた国民を育てることに熱心かがよくわかる。

デンマーク政府は、中等・高等教育の修了率を高めるとともに、労働市場へ入る年齢を若返らせることを熱心に行ってきた。以前にも書いた(参照記事 リベラルな教育の危機)ように、デンマークの若者は教育を修了し、労働市場に入るのが非常に遅いため、(税収の面から見ても)社会にとって損失となっている。そのために教育を早く修了する者に(成績に下駄を履かせるような)ボーナスをつけたりしてきた。しかし、この政策方針に従った若者が「損」をする結果となったことも報じられている(2010年4月13日、Politiken)。

デンマークの高等教育修了者は、学業を修了してもすぐに仕事を見つけられない場合が多い。そのために、失業保険も新卒者に対しては優遇措置があり、通常は一年経過しないと受給できない失業手当が、卒業後2週間以内に入れば一ヵ月後からすでに最高受給額の82%が受給できる措置があるほどだ。この保険があることによって、安心感から選り好みしているのかもしれないが、新卒者の失業率は平均33%にも及ぶ(院卒者組合のHPより、PDFファイル)。
2008年1月から2009年6月に修了した新卒者1863名の失業率

政治学・行政 22%
心理学 25%
商学 30%
工学 31%
映像・メディア学 33%
デンマーク語 34%
図書館学 36%
歴史学 38%
生物学 40%
哲学・思想 41%
建築学 50% 
 −−総合平均 33%
しかし、大学院修了者組合が出した調査報告書、『自由選択、それとも自由落下? 教育から就業への移行』によると、さっさと高等教育を修了した者よりも、学業に余分に時間をかけながらも専門科目と関連のある職場でアルバイトをしていた学生のほうが、就職に有利なことが明らかになっている。この調査は、3051人の学位取得者、修士学生にとったアンケートと、12の専門分野で78人のインタビューを組み合わせている。専門と関連のあるアルバイトをしていた者の場合には、73%が就職へ効果があった一方、専門と関係のないアルバイトをしていた者は就職へ効果があったのは57%に留まった。

考える間もなくひとつの教育課程から次へ課程へと進学せざるを得ない、日本の学生にとっても示唆深いと思われるので、結論の一部を挙げよう。

・在学中の専門科目と関連したアルバイトは、修了後に失業するリスクを減らす。
・学業を修了する前に求職活動をすべき。
・外国でのインターン経験や留学経験は、(実は)失業リスクを減らさない。
・専門科目と関連のあるアルバイトをすることは、高い成績を取ることよりも就職に有利に働く。
・学生が専門と関連した仕事を得る障害となるのは、職の実情の理解不足と、ポスト不足である。
・学生が修了前に求職をする障害となるのは、修士論文の提出へ向けたプレッシャー、求職書類の受付期間の短さ、自分の能力が労働市場にどんな風に適合するかに対する無理解である。
・学生の多くはそれぞれの教育機関の就職ガイダンスには満足しているが、より早期のガイダンスを希望している。
・就職ガイダンスはすべての専門分野で利用できるものではなく、一般労働市場における能力よりも、研究職へ就くための能力に重点を置きすぎている。
・金融危機は、学生や修了者の求職活動に特別な意味をもっていない。

求職の際に提出する書類には、成績表とともに、専門分野に関連した(輝かしい)就労経験が載った履歴書が求められる。そのためには、大学の授業を熱心に履修して好成績を修めるだけではなく、実践経験が重要だということになる。日本のように、就職活動を理由に授業へ参加しなくても単位が取れるということはないが、デンマークの大学もまた、カリキュラムで職業とのレリバンスを追求していくという課題を抱えているといえる。中等教育・高等教育を問わず、将来の職業を見据えた専門性の確立と、そのためのキャリアガイダンスが求められている。

ひらめき前回の記事(高福祉の裏側にある過酷な税徴収と「いたちごっこ」に追記しました。ご関心があればどうぞ。
posted by Denjapaner at 06:28| Comment(0) | 教育政策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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