2008年07月26日

福祉国家の片隅の貧困と増加する若者ホームレス

湯浅誠氏の『反貧困』(岩波新書、2008年)を読み終えたところだ。実体験に即した説得力のある事例に日本の労働環境の苛酷さと搾取の現状はここまできているのかと胸が詰まり、ぐいぐいと引き込まれつつも、読み進めるのが辛かった。成人の社会生活を構成する最も重要な一面である「働き方」の問題は、やはり厳しく問われなければならない。デンマークでも、国内における貧困問題が語られることはあるが、その質や議論は日本と異なる。それでも、生活保護水準や最低賃金の議論、ホームレスの議論など、経済的資源に恵まれない者の、同じ問題を語り合っているように思われる。デンマークのメディアにおける批判的議論ではどのような文脈で取り上げられ、とのような批判にさらされているのかを紹介してみよう。

この数日(2008年7月22日、23日、26日)、Information紙では、増加する若者ホームレスの問題を取り上げて、特集している。取材の背景となっているのは、デンマーク社会福祉研究センターによる2007年の調査である。デンマーク国内で5,253人のホームレスがおり、そのうち1300人ほどが30歳以下の若者であるという。参考までに、日本での「公式」のホームレス数は25,296人(2003年厚生省調査)というから、ホームレスの定義や統計の出し方が異なるにしても、単純に日本とデンマークの人口差を勘案すれば、デンマークには日本の4倍ものホームレスがいることを意味する。日本のホームレスの平均年齢が55,9歳と高齢男性が中心であるのに比べ、デンマークでのホームレスの構成率は、18-24歳が13%、25-29歳が11%、30-29歳が26%、40-49歳が28%、50-59歳が15%、60歳以上は5%となっているため、30代・40代が中心であり、30歳以下の若者も4分の1を占めていることになる。こうした事情で、今回の特集記事は、若者がホームレスのなかで目立った割合になっているにもかかわらず、公的機関が若者をターゲットとして問題解決に当たる対策を立てていないことを批判する文脈である。

こうした若者ホームレスが増える背景には、やはり薬物やアルコールの氾濫が大きいようだ(若き現代版ヴァイキングの暴挙、および幸福な国に住む、不幸な親と不幸な子ども 参照)。SFIの「デンマークのホームレス状況」というレポートによると、45%はアルコール依存、33%はハシッシュなどの麻薬依存、13%は薬物依存であるとされ、さらにホームレスのうち30%は精神疾患を患っている。そのほかの理由としては、家を追い出されたり、刑務所から出所したといったものも含まれる。ホームレスのうち半数は1年以上も定住所を持たず、30%は2年以上ホームレス状態であり、20%はホームレスになって3ヶ月以内であった。

多くの場合、ホームレスは大都市に集中しており、コペンハーゲン市でも、ホームレスのための17の施設が用意されており、合計すると749人分の24時間生活センター、458人分の日中生活生活センターなどの保護センターがあり、睡眠、必要最低限の栄養、シャワー等の衛生管理などが適うようになっている。しかし、こうした公的簡易宿泊所の利用費用は、一泊朝食付きで83kr.(約2000円)であり、一ヶ月には2500kr.(6-7万円)になるため、若いホームレスたちには到底支払えない金額であるという。そのため、「ソファー・サーファー」(ネットサーファーのように、友人や知り合い宅のソファーを借りて次々と回っている状態)をしたり、野外で眠ったりという状態を余儀なくされている。25歳以下の若者に対する生活保護は、課税前で5,940kr.(約14万円)ほどであり、こうした保護センターの部屋は最低限の食費を入れると月に3,600kr.ほど、食費を入れなくても2,100kr.ほどになるといい、他の収入がなければなかなか払いづらい金額である。そのため、「ソファー・サーファー」になっている者が40%を占めるという。こうした「本格的ホームレスの“予備軍”が表に出てきて、公道で眠ったりするのもまもなくのことだろう」とホームレスのための全国組織、SANDのアスク・スヴァイストロップ(Ask Svejstrup)は記事で述べている。

2008年7月23日のInformationでは、19歳のホームレスの青年、エディ(ネット上の記事ではイェンスとなっている)のライフヒストリーとインタビューが紹介されている。エディが7歳のときに両親が離婚し、エディは父親に、弟は母親についていくことになった。エディの父親は薬物およびアルコール乱用者であり、そのため半年後には父方の祖父母に預けられた。その後、親権は母親に移ったため、母親の元へ帰ることになるが、母親が恋人を見つけるたびに引越しを余儀なくされ、小中学校は7回変わったという。10年生(事情により中学校を一年オーバーして4年目の最終学年)のころには学校を諦めざるをえなくなる。義理の父親に言われた言葉がトラウマとなり、学校でも常に手に汗をかき、授業に集中できなかったという。

2007年に母親に家を追い出された後は、複数の保護施設で過ごし、対社会恐怖症とうつ病と診断されたが、抗鬱剤は処方されず、結局一週間で施設から追い出された。その頃は、4ヶ月アンフェタミン依存を続け、7キロ痩せ、骨と皮だけになった。その後、コペンハーゲンにある生産学校(給料をもらいながら、職業に結びついた技能を学べる若者向けの学校)へ行くはずだったが、コペンハーゲン市内に住所がないため、叶わなかった。そして、今は過去2ヶ月間ノアブロの保護施設で暮らしているという。住所がないため今はもらえない生活保護をもらい、アパートを借りて学校に行き、仕事を見つけるのが当面の目標だ。「今の自分のような姿ではなくて、まずアパートを借りて仕事を見つける。父には自分がしてきたような腕に注射をしたりしている姿じゃなく、僕がしっかり生活している姿を見せてやるんだ!」というが、今の自分が満足の行く生活をできていないこと、そして社会に対して以上に自分自身に対しての不満が大きいことを物語っている。今の彼の、「宿泊所でテレビを見て、ジョイントを吸い、他の住人とおしゃべりして…という“ゾンビかロボットのような生活”」を終わりにするためにも、ハシッシュなどのへ依存を克服し、仕事や学校といった真っ当な人生を始めるつもりだ、とインタビューは結ぶ。…彼はたったの19歳なのである。

こうしたエディの生育を聞いていると、機能不全家族において親から十分な愛情を受けずに育った子どもが、結局貧困環境に陥るという現実は、前記の湯浅誠のいう「人間関係の“溜め”」がない状態が、結局福祉国家の福祉政策を以っても十分に掬い取れず、世代間の貧困の連鎖を招いている現実を示しているといえる。福祉の隙間に落ち込んでしまった若者たちが、ホームレスとなり、こうした公的センターで年長の「ベテラン」ホームレスなどと深く関わることで、さらに薬物中毒やアルコール依存が深化したり、女性たちがレイプされたりという話もよくあるようであり、若者のみ、あるいは女性のみを対象とした施設や支援システムを確立することが喫緊の課題となっている。

教育/資格がないために仕事が見つけられず、貧困に陥るという状況に特化すると、デンマークでは(日本での自衛隊のように)給料をもらいながら技能を身につける職業学校のような職業訓練施設が数多くあり、この好況の中では就職も難しくはない。精神疾患や薬物依存などを抱えての挑戦は簡単なことではないが、それでも再チャレンジの機会は与えられているところに日本との違いはある。その点で、日本経済新聞の7月9日の「再挑戦できる国、デンマーク」の記事で紹介されたことは事実だが、そうしたシステムの想定しないところにおり、福祉をもっても十分に掬い取れないこうした人たちも背景にいる事実を併せて知っておきたい。

ホームレスは住居を持たないが、国民登録(日本の戸籍登録)は誰もがされているため、登録先のコムーネを通じて生活保護は受けることはできるようだ。上記のエディの場合、別の土地から流れてきたため、コペンハーゲンでの受給ができないケースのようだが、生活センターの上の階にある会社の夜間清掃アルバイトをしたいと話しており、彼を救う道は出てくるだろう。たった19歳というこんな若者が、犯罪を犯したり、病気になったり、何らかの形で障がい者になったりすれば、刑務所、病院、障害年金など、いくつもの形で結局国がその費用を負担することになるのだ。彼らの自立を支援し、若い力を労働市場で活用し、税金を納めることが結局効率性を追う議論においても、長期的な視野で生産性が高いという結論になる。ホームレスシリーズとして、生活保護やホームレスの実態については次回の記事に詳述する。
posted by Denjapaner at 22:30| Comment(0) | TrackBack(1) | 社会事情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Excerpt: サンデーモーニングを見てご関心をもたれた方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。
Weblog: デンマークのうちがわ
Tracked: 2010-12-27 20:01
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