最近始めたTwitter(@denjapaner)では即時でつぶやいたのだが、予定されていた先週22日の最終交渉は、多くの予測通り決裂し、イースター明けの4月2日からの学校ロックアウトは決定的となった(公式には4月1日とされているが、4月1日がイースター2日目の祝日に当たるため、実質は2日開始となる。本稿でも公式報道に従い、これ以降は4月1日実施として扱う)。多くの学校がすでにイースターの休暇に入っているが、社会人がイースター休暇に入るのはこの木曜日3月28日からとなっている。ロックアウトの影響に関する報道はかなり出尽くした感もあるが、いまだ誰も経験したことのない公共部門の職場閉鎖であり(オールボー大学のヘニング・ヨアンセン教授は、公共部門で初めてロックアウトが決定的となったことをもって、「歴史的な日」と呼んでいる)、多くの人々がいつまで続くのか、両者が合意にたどり着けるのかと強く懸念している。
前回の記事では、フォルケスコーレと呼ばれる義務教育課程の公立小中学校の生徒への影響を主に扱ったが、影響を受けるのはこの学校群の教員と生徒だけではない。自治体が管轄する公立学校のほかに、国の管轄下にあるその他の学校群も多くあり、この労使交渉が3月25日に行われ、教員組合の代表で交渉役をしているアナス・ボンド―・クリステンセン(Anders Bondo Christensen)がこの機にも教員中央組織(LC)を労働者側の代表として団体交渉に当たり、対する使用者側(国)の代表としては財務省の下部組織である公共行政の近代化庁が当たった。ここでも当然のことながら、交渉は決裂し、これをもって国の直轄の下にある学校群もロックアウトされることになった。
こうした学校群には、約15%の子どもたちが通う私立・独立学校(義務教育レベル)や、多くが寄宿制を取っている9年生10年生学校(エフタースコーレ)もあり、こうした学校では一部父母の自己負担となる授業料を取っているため、ロックアウトが長期化すれば授業料の返還なども求められることになる可能性もある(各学校の理事会が独自に判断の下で行う)。また、子どもたちだけではなく、成人基礎学校(VUC)、介護士の基礎教育などを行う職業学校、生産学校に通う成人の生徒たちも影響を受けることになる。その数、およそ87万5000人。
<自治体管轄の学校群>
公立小中学校 556,660人
自治体の青年学校と寄宿制青年学校 3,809人
外国人のためのデンマーク語教育 21,761人
<国管轄の学校群>
私立・独立学校(小中学校レベル) 102,498人
寄宿制9年生・10年生学校 24,017人
技術・家庭科学校 410人
生産学校 6,098人
基礎職業教育 (介護士など) 19,000人
通常成人教育 23,029人
基礎成人教育 8,100人
成人識字教育 5,036人
職業教育・訓練 94,102人
寄宿制の学校に通う生徒は、突然住むところを失い、自宅に帰られなければならなくなるため、生徒たちは「この衝突が自分たちを人質に取っている」と感じている。デンマーク語教室に通う外国人などは、既定の期間中にデンマーク語の試験に合格しないとならないという規則があるため、ロックアウトによって長期間にわたって授業や試験が履行できなくなれば、国を去らなければならなくなる可能性さえ出てきている。
とにかく大変な規模での混乱が予想されていることが見て取れるだろう。学校にも、労働協約の拘束を受けない雇用形態で働く教員というのが約5人に1人ほどおり、この人たちはロックアウトの影響を受けることなく、職務に就くことができるというが、自治体ごとにその数や割合は異なり、何とか通常授業を行うことができるところもあれば、まったく不可能なところもある。この教員たちも(ロックアウトによって人が足りないことがあっても)通常業務で行うこと以上のことは一切行ってはならないという厳しい取り決めがあるため、少ない人数でなんとか回すというのは当然のこと、選択肢ではない。全国98の自治体がそれぞれ異なる対応をしているため、子どもを持つ親は自治体のHPを頻繁にチェックするなど対応を求められている。(このページのGoogleの地図で自分の住む自治体をズームして見つけて、クリックするとその対応がみられるようになっている)
思わぬところからイースター休暇が長引くことになり、子どもたちが喜ぶかといえばそうもいかない。夏には試験を受けて終了しなければならない生徒もいる。教育相のクリスティーネ・アントリーニ(Christine Antorini)は「どんな生徒もこのロックアウトの影響で、修了試験に臨めないといったことがないように全力を尽くす」といっているが(2013年3月24日、Avisen.dk)ことの長期化によっては生徒たちにとってグロテスクな結果も必至だ。すでに今日の報道では、民間の会社が補講を行うサービスを提供し、藁にもすがる思いの親はそれにお金を払っているなど、デンマークらしくないことも聞かれるようになってきている。前回の記事でも書いたように、国(政治家)の非介入はデンマークの労使交渉の根幹にあるため、慎重さをもって行われる必要があるが、ロックアウトの長期化と交渉の泥沼化によっては世論の流れからも避けて通れなくなるはずであり、その対応が今後も注視される。