2013年03月26日

4月1日からのロックアウト(職場閉鎖)が決定的に

前回投稿した、教員組合と使用者である自治体連合との衝突、そしてそれに伴うロックアウトの可能性(教員組合の労使交渉にみるデンマークモデル ロックアウトは実施されるのか)についての続報。

最近始めたTwitter(@denjapaner)では即時でつぶやいたのだが、予定されていた先週22日の最終交渉は、多くの予測通り決裂し、イースター明けの4月2日からの学校ロックアウトは決定的となった(公式には4月1日とされているが、4月1日がイースター2日目の祝日に当たるため、実質は2日開始となる。本稿でも公式報道に従い、これ以降は4月1日実施として扱う)。多くの学校がすでにイースターの休暇に入っているが、社会人がイースター休暇に入るのはこの木曜日3月28日からとなっている。ロックアウトの影響に関する報道はかなり出尽くした感もあるが、いまだ誰も経験したことのない公共部門の職場閉鎖であり(オールボー大学のヘニング・ヨアンセン教授は、公共部門で初めてロックアウトが決定的となったことをもって、「歴史的な日」と呼んでいる)、多くの人々がいつまで続くのか、両者が合意にたどり着けるのかと強く懸念している。

前回の記事では、フォルケスコーレと呼ばれる義務教育課程の公立小中学校の生徒への影響を主に扱ったが、影響を受けるのはこの学校群の教員と生徒だけではない。自治体が管轄する公立学校のほかに、国の管轄下にあるその他の学校群も多くあり、この労使交渉が3月25日に行われ、教員組合の代表で交渉役をしているアナス・ボンド―・クリステンセン(Anders Bondo Christensen)がこの機にも教員中央組織(LC)を労働者側の代表として団体交渉に当たり、対する使用者側(国)の代表としては財務省の下部組織である公共行政の近代化庁が当たった。ここでも当然のことながら、交渉は決裂し、これをもって国の直轄の下にある学校群もロックアウトされることになった。

こうした学校群には、約15%の子どもたちが通う私立・独立学校(義務教育レベル)や、多くが寄宿制を取っている9年生10年生学校(エフタースコーレ)もあり、こうした学校では一部父母の自己負担となる授業料を取っているため、ロックアウトが長期化すれば授業料の返還なども求められることになる可能性もある(各学校の理事会が独自に判断の下で行う)。また、子どもたちだけではなく、成人基礎学校(VUC)、介護士の基礎教育などを行う職業学校、生産学校に通う成人の生徒たちも影響を受けることになる。その数、およそ87万5000人。
<自治体管轄の学校群>
公立小中学校 556,660人
自治体の青年学校と寄宿制青年学校 3,809人
外国人のためのデンマーク語教育 21,761人

<国管轄の学校群>
私立・独立学校(小中学校レベル) 102,498人
寄宿制9年生・10年生学校 24,017人
技術・家庭科学校 410人
生産学校 6,098人
基礎職業教育 (介護士など) 19,000人
通常成人教育 23,029人
基礎成人教育 8,100人
成人識字教育 5,036人
職業教育・訓練 94,102人

寄宿制の学校に通う生徒は、突然住むところを失い、自宅に帰られなければならなくなるため、生徒たちは「この衝突が自分たちを人質に取っている」と感じている。デンマーク語教室に通う外国人などは、既定の期間中にデンマーク語の試験に合格しないとならないという規則があるため、ロックアウトによって長期間にわたって授業や試験が履行できなくなれば、国を去らなければならなくなる可能性さえ出てきている。

とにかく大変な規模での混乱が予想されていることが見て取れるだろう。学校にも、労働協約の拘束を受けない雇用形態で働く教員というのが約5人に1人ほどおり、この人たちはロックアウトの影響を受けることなく、職務に就くことができるというが、自治体ごとにその数や割合は異なり、何とか通常授業を行うことができるところもあれば、まったく不可能なところもある。この教員たちも(ロックアウトによって人が足りないことがあっても)通常業務で行うこと以上のことは一切行ってはならないという厳しい取り決めがあるため、少ない人数でなんとか回すというのは当然のこと、選択肢ではない。全国98の自治体がそれぞれ異なる対応をしているため、子どもを持つ親は自治体のHPを頻繁にチェックするなど対応を求められている。(このページのGoogleの地図で自分の住む自治体をズームして見つけて、クリックするとその対応がみられるようになっている)

思わぬところからイースター休暇が長引くことになり、子どもたちが喜ぶかといえばそうもいかない。夏には試験を受けて終了しなければならない生徒もいる。教育相のクリスティーネ・アントリーニ(Christine Antorini)は「どんな生徒もこのロックアウトの影響で、修了試験に臨めないといったことがないように全力を尽くす」といっているが(2013年3月24日、Avisen.dk)ことの長期化によっては生徒たちにとってグロテスクな結果も必至だ。すでに今日の報道では、民間の会社が補講を行うサービスを提供し、藁にもすがる思いの親はそれにお金を払っているなど、デンマークらしくないことも聞かれるようになってきている。前回の記事でも書いたように、国(政治家)の非介入はデンマークの労使交渉の根幹にあるため、慎重さをもって行われる必要があるが、ロックアウトの長期化と交渉の泥沼化によっては世論の流れからも避けて通れなくなるはずであり、その対応が今後も注視される。
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2013年03月19日

教員組合の労使交渉にみるデンマークモデル ロックアウトは実施されるのか

しばらく更新が滞ってしまったが、今回は教員(小中学校の義務教育課程に限定)での動きに注目して記事を書きたい。というのも、公立小中学校の改革(「新・北欧の学校」と呼ばれる)と、教員養成課程の改革が同時に行われ、それらに伴う労働条件について、教員組合と交渉相手の自治体連合(KL)の衝突が激しさを増しているからだ。話し合いは、毎週のように行われているが毎度決裂に終わっており、このままでは最も早ければ4月1日から全国の学校がロックアウトになることが警告されている。ロックアウトが実施されれば、協約の適用されるすべての教員、学校内の0年生(幼稚園)クラスの代表教員、放課後の青年学校や語学学校など、あわせて5万2000人の教員たちが職場にいくことができなくなり、生徒たちは授業を受けられなくなる。

使用者側の自治体連合が、提示する条件をのまない教員たちに対して職場を封鎖することで就労をさせずに、給与も支払わない事態にもっていくわけだが(使用者側に賃金支払い義務はない)、それに対して教員組合側は組合のストライキ用プール金を切り崩して組合員たちに損失給与を補償することになる。教員組合はとくに組織力のある労働組合で力も強いため、夏くらいまでだったら闘う資金はあると見込んでいる。これによって自治体連合側は、フルタイム換算で41,000人となる教員たちの給与を支払わずに済むため、結果として全国では一か月に16億デンマーククローネ(約265億円)も人件費を削減されることになる試算だ(Information, 2013年3月18日)。

今週の金曜日3月22日にもう一度交渉の場が予定されているが、その翌週からはイースターの休暇に入ることもあり、ここでまとまらなければ4月以降の混乱は避けられない。4月1日になってからも、さらに交渉が続けられる場合には、ロックアウトはさらに2週間延長が可能だ。それでもまとまらないものの、交渉人たちがまもなくまとまる見込みがあると考える場合には、さらに2週間と5日間ロックアウトは再延長される。それからはもう再延長の可能性はなく、5月4日から一斉に学校での授業がストップされることになる。

最も大きなダメージを受けるのはこの団体交渉の影響から突然学校が閉鎖されて、勉強することができなくなる全国60万人の子どもたち、そして彼らの行き場を探さないとならない親たちである。昼間子どもたちが学校に行けなくなれば、親が協力し合って面倒を見るか、職場に連れて行くなどの対応が求められることになる。特別の公務員規定で職務についている教員はこの影響を受けないようだが、その数は少なく、授業がなくなるのは避けられない。すでに、ロックアウトが実施された場合に備えて、子どもが学校に来られない場合の預かってくれる場所を探しておくようにという勧告もだされており、現実味は増すばかりだ。

では、教員組合側はどんな既得権を守ろうとし、使用者側からの提案の何を不服としているのだろうか。少し背景を見てみよう。以前の記事でもあげたとおり、デンマークの生徒の学力は、PISAなどの国際比較調査で芳しくなかった(「乗り越えたPISAショックと調査の妥当性」)。その後の努力で、自然科学に関する学力はいくらかの向上が見られたものの、平均程度の「きわめて平凡な」成績であり、同じ北欧のフィンランドが抜群の結果を連続して出しているのを見ていると、教育政策を行うものにとってもどかしいところもあったようだ。(青が数学的能力、赤が読解能力、緑が自然科学能力。グレーのゾーンはOECDの平均値)

DK_PISA 2009.jpg

教育にGDPの7.1%を費やし(2008年データ。OECDの平均は5.9%で、日本は4.9%。Education at a glance 2011)、OECD諸国の中でも第8位に当たる大きな優先順位をつけているにもかかわらず、費用対効果がよくないことも挙げられている。これを教員が授業に費やす時間が少ないためだと、全国の公立小中学校を管轄する自治体連合は槍玉に挙げ、教員の授業時間を増やせという要求を出している。自治体連合の調査によると、教員は実際のフルタイム勤務の中で授業に従事している時間は39.6%に過ぎず、もっと生徒たちと接し、授業に従事する時間をつくることで子どもの学習意欲や学力向上といった質の向上に貢献できるとしている(KLの報告書。デンマーク語)。

教員は「就業時間規則」という規定により、校長などの管理職によって決められることなく、自ら就業時間を振り分けることができる。授業準備に費やす時間がこれだけ、といった形で決められているため、経験豊富な教員が実際にはそんなに準備に費やす必要がなくても、その分を別のことに回すといったことができない。これが生徒と過ごす時間を増やすことを阻んでいるとして、使用者である自治体連合側はこの教員だけが備えた特権を廃止し、管理職がフルタイム週37時間の割り振りを決めるようにできるようにすることを「平準化」として望んでいる。対する教員組合側は、強硬にこれに抵抗しており、交渉は泥沼化しているのが現状だ。

同時に進行するのが、政府側の思惑としての「ゆとり」の廃止である。ドイツも同様のようだが、デンマークの学校もこれまでの半日制から全日制へ移行させることで、授業時間を増やすことで学力と国際競争力を高めたいという狙いである。2006年以来、7つの自治体に位置する13の学校で特例措置として全日制を導入し、学年を問わず8時から16時までの8時間を学校で過ごすようになった。(*学校教育法は16条3項は、幼稚園クラスと1-3年生までが学校で過ごす時間を、一日7時間まで(2010年以前は6時間まで)と定めている。)

そして2012年10月には、この全日制の学校がどんな成果を上げているのかを評価するため、第三者機関であるコンサルティング会社が教育省の委託を行った調査の評価報告書が刊行された(Ramboell『全日制学校評価 報告書』。デンマーク語)。同報告書は、直接学校に長くいることが学力の向上に貢献するとは結論付けられないものの、全日制の一部の学校では、ほかの全日制の学校や全日制でない学校と比べて前向きな効果もあった(なんと曖昧な!)、としている。なお、報告書の結論部分にも書かれている通り、ここで特例措置として全日制を実施した学校群はすべて(二言語児が多く在学するなど)問題のある学校だったということも併せて検討される必要があり、「学校にいる時間を長くすると生徒の学力が向上する」という単純な結論は導けない。それでも、教育相のクリスティーネ・アントリーニ(Christine Antorini)はこの結果を好意的に受け止め、「今後を見るに値する変化」として、全日制のための足場を固める準備をしている。「新・北欧の学校」というプロジェクト名で公立学校の改革を進める教育省は、学校教育法の改正も含め学校教育全体を変えることに意欲を燃やしており、そのために全日制の導入が要となることもあり、政治家も学校をめぐる労使交渉にあれこれを口を出したくなっているようだ。

しかし、フレキシキュリティのデンマークモデルとして知られる大原則に、「労使の交渉に政治家が口を出さないこと」がある。交渉がいかに膠着状態に陥ろうと、「政」は「労・使」に干渉しないというのがデンマークモデルの重要な原則であるため、これを曲げるわけにはいかない。たとえば、現在は経済産業大臣ながら、教育大臣を経験した急進自由党の党首のヴェステーア(Margrethe Vestager)は、教員組合が「改革によって授業準備の時間をとれなくなり、ディスカウントな授業になり学校の質が落ちる」といったような「神話」を作って世論を誘導していると発言している(Politiken,2013年3月3日)ほか、社会民主党の財務相のコーリドン(Bjarne Corydon)もたびたび口を挟み、教員たちに「口出しをするな!」と猛反発にあっている。

vestager-jpg.jpg

しかし、コペンハーゲン商科大学のペーダーセン(Ove K. Pedersen)教授によると、実質の使用者が自治体であっても、結局の財源は国から自治体に交付されるものであるため、財務相がこれにある程度の利益関心をもって自治体とともにシナリオを準備をしたり、意見を述べることはこれまでもされてきたことであり、これはデンマークモデルの基盤を壊す「干渉」には当たらないとされている(Information, 2013年3月19日)。財務相を経験したシモンセン(Palle Simonsen)も同意見である(Information, 2013年3月19日)。

教員にこれまでの週に25コマ(一コマ45分)ではなく、毎日5時間ずつの週25時間を授業に充てるようにさせるというのがこの全日制以降に伴う教員への要請だが、教員側からは親の立場の人をキャンペーンビデオに起用し、「先生が準備しないで授業をしたら、質が下がってしまう」「8時から16時までなんて大変なことよ?」、「子どもたちの遊ぶ時間や余暇活動はどうなってしまうの?」「保護者が先生と話をする時間を取れなくなってしまうのではないかと心配…」といった反応を示している(記事一番下のビデオ。自動再生ですみません)。国際競争力という指標だけに動かされて、人間味や文化的な素養のない画一的な子どもばかりになってしまうことへの懸念もされている。

新聞の投書欄の教員の女性は、「1.病気で休んだ生徒を訪ねるために、日曜日に家庭訪問した。2.生徒に犬と狼がどんな生物学的分類でつながっているのかと尋ねてられて、自宅で調べた。3.親との懇談が予定よりも長引いた。」といった最近の例を挙げて、経営側に就労時間を管理されるようになると、こうしたことをする時間を見つけられなくなると現在の就業時間を自分で割り振ることができることが大切という議論を展開している。(日本の教員なら当たり前のように自分の余暇時間を当てていると思われるが、それが当たり前と思ってはいけないと労働時間の意味を自戒させられる。)

緊張状態にある労使交渉という点でも、学校教育がどういった方向に変化していくかという点でもとても興味深い今回の教員たちの団体交渉を息をのんで見守っているところだ。(続報はまた金曜日以降に載せます)

posted by Denjapaner at 18:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働政策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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