2011年06月27日

デンマークの東電株主と社会的責任投資(SRI)

明日、6月28日には東京電力の株主総会が開かれるが、大荒れが予想されているようだ。脱原発派の人が敢えて暴落した東電の株を購入し、総会に参加して「株主」として発言するらしいとも聞かれる。

今回の事故の処理対応で各種の非難を受けている東京電力の株を所有し、間接的に原子力発電推進を支持することは、倫理的に正しいことなのだろうか。あまり知られていないが、デンマークでも医師年金基金(英語ページにリンク)が東京電力の株式に投資している。企業の社会的責任(CSR)が声高に叫ばれるデンマークでは、株式投資にも社会的責任投資(SRI)と呼ばれる倫理規定が設けられているのが一般的である。

なお、日本語での原子力発電とSRIをめぐっての資料は、SIFJ共同代表理事、河口真理子氏による報告書が詳しく、参考になる(「原子力/原子力発電事業をいかに考えるか:SRIの立場からの論点整理〜イデオロギーとしての原子力から、投資リスクとしての原子力評価〜」)

そこで、医師年金基金の定期刊行誌では「フクシマの陰に」と題した同基金の所有する東京電力株について、説明を行った。株主総会を目前に控えたいま、関心がある方もいると思われるので、以下では全文を訳出する(『医師年金ニュース』2011年6月号、pp.6-7。こちらから全文ダウンロード可能)。
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フクシマの陰に
医師年金基金は、津波の被害に遭った福島原発の背後にある企業、東京電力の株を所有しています。以下の、年金基金の倫理と社会的投資責任についての説明を読み、当年金基金のSRI規定がなぜこうした株をブラックリストに入れるだけではなく、それ以上の処置を行うのかについて理解してください。

日本の東京電力が、世界でももっとも大きな電力会社のうちの一つであることを知る人は多くありません。しかし、それでも同社が今年の3月11日に津波による被害を受け、ボロボロになった福島原発を所有していることは多くの人が知っていることでしょう。東京電力の経営陣が受けた厳しい非難は、この大事故における不十分な危機対応に対してだけではなく、監査などの際に情報隠匿をしていたことも挙げられています。この点については、いまだに精査が継続しています。

医師年金基金は、LPIアジア株IIという投資協会を通じて、東京電力の株を所有しています。今年の初めには、同株は約1700万クローネの価値を有していました。しかし、震災後には東京電力の株価は約75%下落しました。

年金基金の方針
医師年金基金は、国連グローバルコンパクト原則を満たす企業に投資しています。同原則は当年金基金の社会的責任投資の原則、いわゆるSRI方針(記事末の表参照)の裏付けとなるものです。それに加えて、当年金基金は2009年には、国連の外郭団体であるPRI(責任投資原則)の会員となっていますが、同団体は投資決定に倫理規定を設けるという共通目標を掲げています。2010年には、当年金基金の管理者が投資してはならない企業リストは4つ増やされ、逆に2つの企業がリストから抹消されました。

なぜ、東京電力?
しかし、なぜ、医師年金基金が地球上の反対側にある企業の株を所有しており、どうやってそんなに遠くからこうした企業が当年金基金のSRI規定を満たしていると確認することができるのでしょうか?

年金基金の株部門主任スティーン・マークスが説明します。

「私たちの株式ポートフォリオである130億クローネは世界中の1500以上の株に投資されており、そのすべてが投資協会を通じて行われています。これは、リスク分散のために欠かせない配慮です。しかしながら、90%以上の株が私たちが自ら設置した投資協会にあります。これによって、株式管理者が投資を行ううえでの倫理的な枠組みを自ら設定することができるのです。これが一定程度のコントロールになります。同時に、私たちは昨年来、コンサルティング会社、Ethix SRI Advisors ABと協働しており、同社は当基金の規定を遵守するのに問題がある企業をチェックする業務を請け負っています」

Ethixの現段階での東京電力に対する調査では、年金基金のSRI規定に関連した問題があるとは認められませんでした。東京電力が抱えていた問題はこれまでの経営陣と関連してのものというのが同社の評価であり、日本の当局による同社の評価を待って、東京電力に関する積極的な対処をするとしています。

また、こちらはあまりメディア露出はされていない問題ですが、医師年金基金とその他いくつかの機関投資家は、巨大企業のサムスンに対して詳細な説明を求めました。

「将来的に問題になる可能性がある汚職があるような形跡があったため、それに反応したのです。他の投資家とともに同社に対して行った説明要請によって、同社は従業員の責任ある態度に関するガイドラインを設けました。このケースはSRI規定が(掲載企業に投資してはならないという:訳注)消極的リストを扱うだけではなく、株を所有することによって、企業の姿勢や態度に対しても働きかけるものとなることを示す好例です」とスティーン・マークスは述べています。

ほぼ全機関にSRI規定が
系統だってSRIに取り組んでいる職業的投資家は、医師年金基金だけではありません。デンマーク社会的投資フォーラム(英語ページへリンク)が今年の1月に行った調査によると、デンマーク国内にある50の大手銀行、保険会社、投資協会、年金基金の88%が2010年の段階で責任ある投資に関する規定を定義していたとされています。

医師年金基金と同様、ほぼすべての投資機関が国際憲章や環境や社会的な規律に違反するものを「捕まえる」ツールとして、ポートフォリオのスクリーニングを行っています。

年金基金のSRI規定
……
当年金基金の社会的責任株式投資に関する統括的ガイドラインは
・デンマークの当局および実績ある国際組織が具体的な国と企業に出され、デンマークで認められた要件を基準とし、
・国連の人権、労働者の権利、環境、反汚職に関する原則に従い、
・児童労働、強制労働、性差別、結社の自由といった基本的人権に違反する企業に可能な限り投資しないことを確実にすると同時に、
・国内の環境および汚職に関する法に違反する企業に可能な限り投資しないように確実にし、
・クラスター爆弾、対人地雷や化学・生物兵器を生産する企業に投資しないよう確実にし、
・タバコ生産を主とする企業に投資しないことを確実にする。

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東京電力は株主総会を非公開とするとしているが、情報の隠匿は代償を伴うものとなるのが常だ。国内だけではなく、諸外国にもこうしたステークホルダーが目を光らせていることを忘れてはならないだろう。
posted by Denjapaner at 23:03| Comment(3) | TrackBack(0) | 社会事情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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